東の鷹

松本 慶

第一章 はじまり

第1話 ウェル・バーギン

———人間もいれば魔物もいる世界。

———剣士もいれば魔術師もいる世界。

———国もあれば戦争もある世界。


その昔、神の怒りによってこの世界は三つの大陸に分かれたと言われている。

東の大陸イースタリア、西の大陸ウェスタリアとの戦争は長い間続いていた。

人々は日々その恐怖に怯え、慣れることは決してなかった。

怯えさせるものは戦争だけではない。

魔物と呼ばれるそれは人間ならざる存在、民がその被害に遭うことは増える一方。

しかしそれらを依頼として請け負い、生業とする者達がいた。

人々はそれを勇士と呼んだ。


ここはイースタリア大陸。

最南端、ハロ村。


生まれた時からここで育った少年、ウェル・バーギン。

同じくここで育ち、共に同じ時を過ごした少年、カイ・デリック。


二人には夢がった。


「カイ、支度は済んだのか?」


「ああ、いよいよ明日だからな」


勇士を目指し王都を訪れる者は少なくない。

この二人もまた然り。


「王都に着いたら勇士団を作ろう、カイ」


「お前それ何回目だよ・・・うんざりするほど聞いたって」


いつかイースタリア大陸一の勇士になることが二人の夢だった。


最初はもちろん引き止めようと説得する者もいた。

鼻で笑う者もいた。

しかし二人が勇士になるためにと、日々鍛錬を続けている姿を見ていくうちにその者達は徐々に減っていった。


「それじゃあ行ってくるよ」


大きなバッグを背負った二人は村の出口で立ち止まると、ウェルが軽く手を上げ背中を向けて歩き出す。


「まだこの辺りは低級な魔物しか出ないからいいけど、この先もそうとは限らないぞ。びびって腰を抜かすなよ?」


カイは意地悪い顔をしながら、肩をウェルにぶつけた。


「お前こそ、子供の頃魔物に出くわして半泣きだったのを忘れたとは言わせないぞ」


乾いた空には笑い声が響き、気持ちのいい風が二人の間をすり抜ける。

はじめて村を出る二人の胸に不安は一切なく、希望と期待で満ちていた。


村を出てからどれくらいが経っただろうか。

日は沈み、辺りは暗くなっていた。

少し道からそれた所には河原があり、寝床としては上々な場所といえた。

火をおこして暖をとり、野宿の準備を終える。


「王都まではどれくらいかかるかわからないからな。金もそこまでないし、食料はなるべく節約しないと」


ここでカイを見るとすでにパンを一つ食べ終わっており、もう一つに手を伸ばしていた。


「お、おいおい・・・そんな調子で食べてたらすぐに底をつくぞ」


「心配すんなって、いざとなったらイノシシでも捕って食うからよ」


カイは子供の頃から先のことをあまり深く考えず、事を大きくしてはウェルがそれをどうにかしていた。

とはいえ、全く成長の兆しが見られないことにウェルは呆れるしかなかった。


食事を終えるとおやすみと言い、二人は目を瞑る。

いつもと変わらないのは、また明日と言わないことだった。

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