第24話 念願
次の日ウェルは一人で泉へと足を運び、ジーナを待ち続けた。
「くどいぞウェル・バーギン」
「そう言うなよ。今日はただ話をしに来ただけだ」
「話?」
「そうだ。この泉から離れたことがないなら、外の世界のことをほとんど知らないだろ。知りたくないか?」
ジーナはこの時はじめてウェルに笑顔を見せた。
ウェルは王都のことや勇士の話を聞かせた。
最初こそ話し相手程度に聞いていたが、ジーナは徐々に興味を持ち始めていた。
「お前の話は面白かった、しかしそろそろ戻らなければならない」
ジーナは立ち上がり、服を掃う。
「また来ていいか?」
「あぁ、また聞かせてくれ」
それからもウェルは泉へ行ってはジーナと様々な話をした。
ジーナがウェルに話すこともあった。
「魔法は一冊の本からそのすべてを学ぶ。だがその属性は同じでも威力や種類は異なる。なぜだかわかるか?」
ウェルはしばらく考えたが、答えることはできなかった。
「魔術師は弟子をとり、その弟子は自分の魔法を開花させそれを本の続きとして残す。そうして魔法は形を変え増えてきた」
魔術師は己の魔法を生んでこそ一人前なのだと教えてくれた。
「ジーナは誰の魔法を継いだんだ?」
「私は祖父だ。幼い頃に両親を亡くしたが、祖父の魔法を継いだことは自慢だ」
「ジーナのお爺さんか、いつか会ってみたいな」
日も暮れ、この日はこれで王都へと戻った。
「えらく一生懸命口説いてるじゃない」
ここ数日泉へ通うウェルに、リコは皮肉交じりで話しかける。
「そんなんじゃないって。ただ、なんていうのかな。俺らが最初に出会った頃のジーナ、なんだか少し寂し気に見えなかったか?」
「それはあったかも。あんな小さな子が一人で泉を守ってるだなんて、悲しい物語みたいだもの」
「お爺さんと暮らしてるみたいなんだけどな。明日、もう一度行ってみるよ」
そして次の日、いつものように泉の前で座り話をしているとジーナは急に大きな声をあげた。
「お爺様!」
その目線の先に目をやると、そこには初老の男が立っていた。
「この方がウェル君かね」
ウェルは立ち上がり、すぐに名乗った。
「私はジーナの祖父、ダナン・ウンディーネと申す。君のことはこの子から聞いているよ」
ダナンは長い髭を手で撫でながら、優しい笑顔でウェルに近付いた。
「ウェル君は勇士団長をやっているそうだね」
「ええ、まだまだ未熟者ですが」
「老練な者などそう多くはない、これから経験を積んでいけばいいだけのこと」
するとダナンは何かを取り出すと、それをジーナに渡した。
「これは・・・?」
「それは代々ウンディーネ家が持つ首飾りだ。それを肌身離さず持っていなさい」
なぜ今これを渡すのか理解できていないジーナをよそに、ダナンは続ける。
「ウェル君、是非君に頼みたいことがある。君にしか頼めないことだ」
「・・・なんでしょう?」
「ジーナに広い世界を見せてやってほしい。話は聞いていると思うが、この子はまだ若い。この泉がこの子を縛り付けるそのものとなっていることなど、あってはならないことだ」
「し、しかしお爺様」
「よいのだ。こういった仕事は老い先短い者に任せよ」
首飾りを持ったネーラの手を握り、少し屈むダナン。
「辛くなったら、いつでも戻ってきなさい」
ジーナはダナンに抱き着くと、小さく頷いた。
「これからよろしく頼む、ウェル・バーギン」
「もうウェルでいいよ。よろしくな、ジーナ」
こうしてホークハート勇士団に新たなメンバーが一人加わった。
ウェルはジーナを連れて帰り、さっそくリコの元へと戻った。
「あの時はすまなかった」
最初に二人と出会った時、魔法を使いリコを閉じ込めたことをまずジーナは詫びた。
「気にしないで、これからよろしくね」
その後、ジーナは王国へ行き賢者の杖とは一切の関係がないことを説明すると報酬金を手に戻ってきた。
しかしウェルやリコにとってはそんなものよりも価値のある、念願の仲間を手に入れたことの方が喜びとなった。
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