第23話 魔女
その姿はフードを被っていたが、声や体格からして年増もいかないような女の子だということがわかった。
「君がリコを閉じ込めたのか」
「そうだ。しばらく様子を見ていたが、泉に入っていったので人質としてああさせてもらった。答えろ、何者だ」
「俺らは王都から来た勇士だ、この泉に現れる魔女に用がある」
それを聞いた彼女は理解できずにいたのか、少し間があくと哀しげな声をだした。
「魔女などと呼ばれていたか」
ウェルは賢者の杖が盗み出されたことを話し、何か知らないかと尋ねた。
「賢者の杖が・・・?申し訳ないが何も知らない。何せこの泉から目を離したことがないものでな」
怪しい者ではないとわかると、リコを閉じ込めていた泡が割れた。
「ここに賢者の杖の手掛かりは何もない、気のすむまで探してもよい。手荒なマネをしてすまなかったな」
「待ってくれ、この泉の底にあったものは何なのか教えてくれ」
沈黙が続き、彼女は深いため息を吐くと重い口を開いた。
「聞けば見たものを忘れると約束できるか?」
「ああ、約束する」
「・・・あれは封印だ」
その昔多くの命を奪い、地を荒らしまわる最恐最悪といわれた魔物がいた。
名はヴァルカン。
何人もの魔術師や勇士がヴァルカンの討伐に挑むも、その命を落としていった。
「今ある魔法はすべて、もともと四人の魔術師によって生み出されたものだ」
「たった四人が・・・?」
「まだ大地が三つに分かつ前のことだがな。その水魔法の生みの親、ディエラ・ウンディーネが命と引き換えにヴァルカン諸共この地に封印をしたのだ」
あの石板から読み取った文字は、封印者であるディエラ・ウンディーネの名前であった。
「ヴァルカンはその強さ故、倒すことは不可能と言われていた。封印した跡地には水があふれ、この泉が生まれたというわけだ」
「じゃあ魔女っていうのは・・・」
「おそらく私のことだ。なにせ封印も古いものだしな、何がきっかけで解けるかわからん。人が近寄れば先程のように脅かしていたのだ」
「なぜ君がそんなことを?」
「なぜ・・・?私はジーナ・ウンディーネ、ディエラの末裔だからだ」
フードを取ったジーナは、その言葉遣いとは裏腹に想像通りのまだ幼さが残る顔だちをしていた。
「話はこれで終わりだ」
そそくさと立ち去ろうとするジーナを前に、ウェルは立ちはだかる。
「まだ何かあるのか?」
「俺はウェル・バーギン。勇士団長をやっている、頼みがあるんだ」
ジーナの返事を待たずにウェルは続けた。
「今はまだ二人しかいないけど、仲間を探している。そこでジーナ、君に仲間になってほしいんだ」
「ウェル・バーギン、お前は私の話を聞いていたのか?」
「もちろん」
「私にはこの泉を護る使命がある、そうなると当然その頼み事は聞けない」
通り過ぎようとするジーナを、ウェルはまだ行かせようとはしなかった。
「聞いてくれ、王国は君を捕獲しろという依頼まで出している。きちんと説明をしなければ連行という形で捕らわれるかもしれないんだ」
「知ったことか」
そう言うとジーナは立ち去り、仕方なくウェルとリコは王都へと戻った。
しかしこのことを協会へは報告しなかった。
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