第27話 苦戦の末

ウェルはすぐに盾を構える。

だが魔物はここで凄まじい勢いの炎を吐いた。

この予想外な行動にウェルは瀕死を覚悟したが、いつの間にか目の前には水の壁ができていた。


「すまんが火の攻撃は通じんぞ」


ジーナの水魔法によってなんとかウェルは助かったが、ここで魔物は攻撃をやめることはなかった。

少し四人と距離を取ると、今度はこちらへ向かって走りだした。


「全員散れ!これは防げない!」


人間の何倍も大きいだけでなく、スピードも乗せた魔物の体当たりを防ぐ手段は無いと思われた。

しかしエドには確信があった。


「大丈夫です、ウェルさん。盾を構えてください」


笛を取り出したエドは演奏を始め、目前まで迫る魔物から逃げようとしなかった。

ウェルは半信半疑のままがっしりと盾を構え、魔物の衝撃に備えた。

低い音と共に多少のホコリが舞うと、微動だにしないウェルの姿がそこにはあった。


「な・・・んだこれ・・・」


自分が大きな岩にでもなったかのような錯覚に陥るほど、エドの演奏の効果は絶大だった。


「反撃しましょう」


「私の出番だな」


ジーナは本をめくり、ウェルの背後へと走った。


「少し下がれ、ウェル」


手の平をかざすと勢いよく津波が流れだし、魔物を押し返す。

この攻撃で大きく態勢を崩すが、尾の蛇がジーナに向かって噛みつこうとした。

これをウェルが剣で振り払うが、好機を逃してしまう。


「すまない、助かった」


パンサークローとの戦闘を終え、体力は消耗しているはず。

しかしそれを全く感じさせないほどの強さに四人は苦戦していた。


(なかなか押し切れない・・・このままだとマズいな)


しばらく攻防が続き、ウェルも段々と息が切れ疲れが見えてきていた。

魔法の名家、ウンディーネ家とはいえジーナはまだ成人にも満たない女の子。

疲れにより、魔法の威力も落ちてきていることに他の三人も気付いていた。

リコの治癒魔法では傷こそ治せるが、体力までは回復することはできない。

これ以上の戦闘は不利になる一方だと感じ、ジーナは勝負にでる。

ウェルもそのことを感じ、魔物の注意を自分に向けた。


「ジーナ、いけ!」


ジーナが纏った水は渦を巻き、いくつも鋭く尖り魔物に向かっていく。

激しい叫び声をあげると魔物はよろめいた。

全員がいけると確信したが、ジーナもここで残りの体力の大半を使い切ったのかその場で膝をつく。

魔物はこちらに背を向けると、弱々しい歩みで奥へと進んでいった。


「トドメを・・・ささなければ・・・」


ジーナは立ち上がり、ウェルの肩に掴まる。

魔物は洞窟の一番奥で体を丸くし、こちらには一切の敵意を感じさせない様子だった。

ジーナがもう一度水を纏うが、渦を巻いたところでそれは止まった。


「どうした?」


ウェルが不思議そうにジーナを見ると、水はその場で地面へと落ちた。


「見ろ・・・」


ゆっくりと近づき、体を丸くした魔物に近寄るとそこにはまだ生まれたばかりに見える赤子が小さな産声をあげていた。

最初に四人と出くわした時に見せたあの威嚇は、子を守る親からきているものだったのだろう。

四人はトドメを刺すことをやめ、その場から立ち去ることにした。


協会にはパンサークロー全滅とその原因は魔物によるものと伝え、依頼は完了となった。

調べによると、その容姿から魔物の正体は古代種のキメラ。

今となってはかなり希少だということがわかり、キメラの巣の一帯は危険区域に指定され人が入ることは禁止された。

更に強さは上位に位置することから、ホークハート勇士団はいわば快挙といえる功績を残した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る