Day08 祭り

 彼女とは地元の花火大会で出会った。浴衣姿の人々でごった返す中、黄色いTシャツにデニムのショートパンツを着た彼女が、一輪だけ咲いた水仙みたいに見えた。大きめのボストンバッグを肩から提げていた。

 どうして話しかけたのか、もしくは向こうから話しかけてきたのか、覚えていない。いつの間にか彼女と並んで、煙が漂う夜空を見上げていた。花火が打ち上がり、腹の底に響くドォンという音が辺りを満たす。その狭間に、少しずつ彼女の話を聞いた。

 なんでも、隣町からバスでやってきたという。

「わたしが何を持ってきたか、わかる?」

 悪戯っぽく訊かれた。素直にわからないと答えると、きみのこと好きになったから見せてあげると言われた。ボストンバッグの口を半分ほど開け、

「ほら、見てみて」

 覗き込んだ中には、色白の女の首が入っていた。人形かと思ったら、瞬きをしてこちらを見、薄い唇を曲げて微笑んだ。

「こんばんは」

 その声は確かに、生首の唇の動きと合致しつつ、ボストンバッグの中からした――と思った。

 驚いたけれど、怖くはなかった。綺麗なひとだと思った。

「姉なの。一人じゃ出かけられないから、わたしが外に連れ出してあげるの」

 火花が夜空を駆け上がった。八尺玉が炸裂し、巨大な花が夜空を照らした。地響きのような音が後に続いた。

 彼女がバッグの口を閉じた。改めて見ると、彼女の姉によく似ていた。

「そろそろ行こうか。姉さんに綿飴買ってあげるの」

 歌うように言って、彼女は僕の手を引いた。


 その夜から彼女と、彼女の姉の夢ばかり見るようになった。

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