Day24 館
「弟さん?」
「そう。弟は首を捜してここまで来たらしい」
森下くんはスツールの上、何も載っていない膝の上で、自分の両手を握り合わせている。
「正確には、首になったかもしれない女の子のことを捜していた。彼女とは夏祭りの日に出会って、それから度々会うようになったらしい。女の子は自分の姉だという首を持ち歩いていて、俺も一度だけ会わせてもらったことがある。そういえば、三崎に一度そんな話したっけな……美人だったよ」
美人だったというのはその女の子のことか、それとも首のことなのか、森下くんは言わなかった。どちらにせよ森下くんの弟さんは、その姉妹のことが大好きだったのだろう。
「弟は何度も彼女たちと出かけたし、自宅にも招かれていた。古いお屋敷だったらしい。ステンドグラスがあって、姉妹はよくそれを見ていたそうだ。それがどういうステンドグラスだったか、俺はちゃんと聞いておくべきだったと思う」
そこまで聞いて、森下くんの考えていることがようやくわかってきた。
「首の話をすると、首が寄ってくるんだよね」
わたしは膝の上のマネキンの首を撫でながら言った。
「どこだったか忘れちゃったけど、海外の有名な教会では、聖書の有名なエピソードをステンドグラスにしてるんだって。文字の読めない人にも聖書の内容が伝わるようになってるんだって、確かそんな話だったと思う。そのお屋敷にあったステンドグラスも、たぶんそういうものだったんだよね」
天井を見上げる。今ここにある色とりどりのペンダントライトを見ても、それがかつて首の話を語っていたのか、分割される前にはどんな物語が描きだされていたのか、何もわからない。
でも、もしも本当にそのお屋敷にあったステンドグラスがここに使われているのだとしたら、首たちはそれに惹かれてやってくるかもしれない。
「谷山さん、たぶん今俺と同じこと考えてるよ」
森下くんがそう言った。「その屋敷はそういう屋敷だったんだ。首を招くための屋敷。でも今は取り壊されて、首の話を伝えていたステンドグラスもあちこちに散っている。リメイクされたのは故意にか、それともたまたまかはわからないけど」
「とにかく、そのステンドグラスがある場所には、首が寄ってくるかもしれない」
わたしが言うと、森下くんはうなずいた。
「そう。だから谷山さん、俺と首の話をしよう。弟の捜してた女の子が来るかもしれないし……それに俺は、弟も首になってしまったんじゃないかって、そういう気がして仕方がないんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます