Day25 心臓
森下くんと首の話をした。
思い出せる限り、話した。わたしの幼少期、ベランダにやってきたおじさんのことを、必死で思い出しながら喋った。
森下くんは夏祭りで首に会った話をしてくれた。姉妹がいた屋敷のことも話してくれた。以前合宿の夜に話した「首が落ちてくる屋敷」は、姉妹が暮らしていた屋敷のことだと教えてくれた。
「妹さんが心臓を病んで、管理できる人がいなくなったみたいでさ。だから――」
そのとき天井の方から、どん、と音がした。
その音がふと、巨大な心臓が鳴った音のように聞こえたのだ。
森下くんが天井を見上げている。彼に応えるように、ふたたび音が鳴る。
どん。
記憶の端っこを掴みかけたような感覚がして、わたしは動けずにいる。
合宿の夜もこんな音がした。こんな音がする中で、わたしたちは誰かに首の話をさせたのではなかったか。
わたしじゃない。森下くんか、三崎くんか、まゆか先輩か、それともほかの誰かが。
首と、それから心臓に関する話をしていたような気がする。
あれはいったい誰だっただろう。
「俺、外を見てくる」
森下くんが立ち上がった。「弟か、弟の捜してた子かもしれない」
どん、どん、という音は続いている。頭上に何かの気配がある。
森下くんはためらわず、ホールの外へ出る引き戸を開けた。音が大きくなる。
どん、どん、どん、どん。
得体の知れないものが外にいる、と思った瞬間、急に怖ろしくなった。わたしは膝に載せていたマネキンの首を、思わずぎゅっと抱きしめた。
「あーあ」
腕の中から女の声がした。
「開けちゃったねぇ」
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