Day23 祭り

 開いたドアの向こうには、男の人が立っていた。驚いて固まる一方で、どこかで見たような顔だと思った。わたしが思い出すよりも先に、

「谷山さん?」

 と、向こうから声をかけてきた。

「……森下くん?」

 もう何年も会っていないから、ずいぶん印象が変わった。それでもよく見れば、学生時代の面影が残っている。

「何持ってんの? それ」

 森下くんがマネキンの首を指さした。

「バスで拾ったの。森下くん、バスじゃなかったの?」

「俺は車で来たから。その辺に停めてる」

 そう、と答えて、なんだか言葉が続かなくなった。

 わたしも森下くんも、少しの間お互いを見つめてじっと立っていた。元々の身長差に加えて、床の上に立っている分、森下くんの方がかなり大きい。だから見上げるのは少し疲れた。

「……とにかく、上がる?」

 ようやく森下くんがそう言った。


 どうして皆と連絡を断ってしまったのか、わたしは聞かなかった。森下くんには何か事情があるのだろう。それよりも気になることがある。

「ひょっとして森下くんも、首捜しに来たの?」

 わたしが尋ねると、森下くんは「まぁ」と曖昧に答えた。

 ホールの中は自然光でほんのりと明るい。わたしは森下くんが出してくれたスツールに座って、膝の上にマネキンの首を載せ、ぼんやりと天井を眺めていた。埋め込み式のライトのほかに、ステンドグラスで彩られたペンダントライトが、等間隔にいくつも並べられている。「合宿所」と呼ぶにはもったいないくらいお洒落な内装だったのだと再認識すると共に、掃除がしにくかろうな、とも思った。

「発電機持ってきてさ、明かりが点くようにしたんだ」

「わざわざ?」

「わざわざ。それで、ステンドグラスのやつだけ点けるんだよ。綺麗だよ、灯篭飛ばす祭りみたいで」

「その綺麗なのを見るためだけに、わざわざ発電機持ってきたの?」

 違うだろうな、と思いながら訊いた。森下くんは適当に「ははは」と笑った。

 わたしは天井を見上げる。以前どこかのニュースで、夜空に灯篭を飛ばすお祭りを見た。国内だったと思う。その年大きな災害があって、復興の祈りと追悼の念を込めてランタンを飛ばすのだと言っていた気がする。

「意味とかじゃないよ」

 森下くんが、突然そう言った。「綺麗だし、それに首は首の話してるところに来るから」

「わたし、何か言った?」

 驚いて尋ねた。森下くんは首を横に振って、「いや、何となく。そういうこと考えてるかなと思って」と答えた。

「灯篭を飛ばすと、首の話をしていることになるの?」

「いや、そうじゃない」

 森下くんの答えは要領を得ない。それとも、わたしの質問の仕方が悪いのか。もう少しちゃんと喋ろうとしたところで、森下くんが言った。

「首なら俺も捜してる。元々は弟が捜してたやつだけど」 

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