Day22 ひらめき
マネキンの首を抱えたままバスを降りるわたしを、運転士がなんとも言えない顔で見送る。バスのドアが閉まるのを待たずに歩き始めた。
枯れかけた背の高い草が茫々と生えるなかに、文字の消えかけた看板が見えた。「ペンション カメリア」と読める。傍らに描かれた椿の花も懐かしい。
(なんでカメリアって名前なんだろうね)
ここに来たとき、誰かとそんな話をしたような気がする。誰だっただろう。森下くん、まゆか先輩、三崎くん、それとも。
「行こうか」
腕の中のマネキンの首に声をかけた。
マネキンの首はもちろん喋らない。でも、不思議な首だ。どこから現れたのだろうか。バスの中で話していた女の子は、どこに行ったのだろう。
「さっきおばあさんが言ってたじゃない。この辺りは変な土地だって。昔から変なことがたくさんあるんだって。どういうことだろうね。首に関係することかな? ――ところで、あなたは誰とおそろいなの?」
返事はない。それでも腕の中の首に話しかけながら、消えかけた未舗装の道を歩いた。五分もしないうちに、行く手に建物が見えてきた。
「あった」
放置されたペンションは、それでも思っていたほどは荒れていない。一応は本館のドアを叩き、声をかけて人気がないのを確かめると、周囲をぐるりと一周して人気がないのを確かめた。
「ペンションの名前はカメリアなのに、椿は植えられてないよね。わたしもそんなに詳しくないけど……でも椿は結構よく見るよ。実家の垣根が椿でね、開花の時期になるとすごく華やか。椿って、花びらが散らずに丸ごとぽとんって落ちるから、落ちた花を拾って玄関に飾ったりしてた」
マネキンの首はやっぱり何も言わないけれど、わたしは話を続ける。この首が動けばいいのに。動いて、喋ったらいいのに。
「――でもおばあちゃんは、それやるとちょっとイヤな顔するの。そもそも縁起が悪い花だから、おじいさんが好きじゃなきゃあんな風に植えないって……あっ」
頭の中でぱちんとスイッチが入るような感じがした。
「……もしかしたら『カメリア』って、生首由来の名前じゃない? 椿は花が丸ごとポトンと落ちるから、斬首を連想させるって言うでしょ。やだな、どうして思いつかなかったんだろ。今はあなたに話しかけてたから、そのおかげでひらめいたのかもね」
建物の周りを一周し終えると、今度は離れに向かった。この建物だ。あの夏の夜、ここでおかしなことがあった。
「ここで生首の話をするとね……」
呟きながら引き戸に手をかける。都合よく開くだろうか? 閉まっていたらどうしよう。悪いけれど、どこかの窓を割って――
そのとき、離れの戸がガラリと音をたてて開いた。
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