再び首が出た場所
Day21 おそろい
「――だって生首って、基本的に構ってちゃんだから。そういう、自分が特別になれなさそうな環境には興味ないんだよね。はい。これ、マネキンの首美容室でもらってきたから。これ使いなよ。もうちゃんと、あいつとおそろいにしてきたから」
昼下がりのバスの中で、そんな会話が聞こえてきた。
思わず振り返ったが、一番後ろの五人掛けのシートには誰もいない。ただ、マネキンの首がひとつ、ごろんと置かれているだけだった。
立ち上がって取りに行こうとすると、『運転中は席におつきください』とスピーカー越しに運転士から注意を受けてしまった。
「おねえさん。そんなものはね、気にしない方がいいのよ」
通路を挟んで向こうに腰かけているおばあさんが、わたしに話しかけてきた。
「このあたり、変な土地だから。昔っから変なことがたくさんあるの」
「はい……」
じっと見つめられて、思わず気おくれしてしまう。おばあさんは白髪頭を振りながら、「大体ねぇ、うそっぱちよ」と続けた。
「おそろいの生首を置いといたら、生首は来ないなんて嘘嘘。だって、おそろいにするってことは、相手を気にしてるってことじゃないの。ねぇ。そんなもの用意したら、かえって寄ってきちゃうわよ」
そのとき、バスががたんと大きく揺れた。
後ろの座席に乗っていたマネキンの首が、通路に落ちた。そのままゴロゴロと、まるで狙いすましたかのように、わたしの足元まで転がってきた。
わたしはマネキンの首を拾い上げた。セミロングヘアの、若い女性の首だ。
(誰とおそろいなんだろう)
ふと考えた。少なくとも、わたしが知っている「ベランダに来るおじさん」ではなさそうだ。
「あーあ、拾っちゃった」
突然、耳元で女の声がした。くすくす笑いがその後に続いた。
はっとして顔を上げたけれど、誰もいない。おばあさんは諦めきったよう
な横顔を見せながら、黙って向かいの座席に座っている。
わたしは少しだけ迷った後、マネキンの首を自分の膝の上にのせた。首が寄ってくるというなら、その方が都合がいい。
それはペンション「カメリア」の跡地に、ひとり向かう途中でのことだった。
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