Day07 ひらめき
料金を払ってバスを降りた。さっき起きたことが何だったのか、考えるのは止めた。そういうことがあったとしても、さしておかしくはない場所だ。ただ、ひとつ後悔はした。
(マネキンの首、持ってくるべきだったかもしれない)
マネキンとはいえ異様なものには違いない。持ってくれば何かしらの手がかりというか、助けというか、そういうものになってくれたかもしれない。もっと早く閃いていればよかった。
まぁ、過ぎたことをあれこれ言っても仕方がない。ここからは五分ほど歩きだ。木々を透かしてみると、向こうの方に白っぽい建物が見えた。
ペンションだ。三角屋根の二階建ての家屋に、体育館のような離れがついている。
あの年、オーケストラ部の合宿は、ここで行われたのだ。
ペンションはその後廃業し、建物はほったらかしになっていると聞く。建物の周囲には雑草が生えているし、片隅に停まっている乗用車はどう見ても廃車だ。
周囲に管理者の連絡先などの掲示はない。勝手に侵入するのは違法だろうが、仕方がない。ここまで来て、空手で帰るのは嫌だった。
(生首って、基本的に構ってちゃんだから)
バスの中で聞いた女の子の声が、「彼女」の声と混ざって頭の中で再生された。
その通りだ。生首は構われたがる。生首の話をしていると、生首が寄ってくる。
五年前の夏の夜は、そういう状況だったのだ。
「いいこと思いついちゃった」
そういう彼女の声は、もう七年も経つのに、今でもよく覚えている。
「旅行に行こうよ。私が首だけになっちゃったら、バッグに入れてもらってさ。そしたら手荷物扱いで、新幹線も飛行機もタダじゃん」
それはいいね、と僕は応えた。
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