首が出た場所

Day06 おそろい

 生首に来ないでほしいなって思ったら、まずマネキンの首とかを用意するの。

 それで、それを生首に近づけるわけ。髪色を染めたり、お化粧させたりして、とにかくなるべく似た感じっていうか、同じ要素を持ってるようにするわけよ。

 それがあると、生首は帰っちゃうの。この家の人間は自分とおそろいの生首をすでに持ってるから、自分はいなくてもいいな――って思うんだって。

 だって生首って、基本的に構ってちゃんだから。そういう、自分が特別になれなさそうな環境には興味ないんだよね。

 はい。これ、マネキンの首美容室でもらってきたから。これ使いなよ。もうちゃんと、あいつとおそろいにしてきたから。


 バスに乗っていると、そんな話が聞こえてきた。

 後ろの座席からだ。どうも、高校生か大学生くらいの女の子が話しているように思われる。僕はちょうど「あの場所」に行く途中だったので、生首と聞くとつい耳をそばだててしまう。

「あとね、生首は生首の話をすると寄ってくるから。これを家に置いたら、もう生首の話はしちゃだめだよ」

 今一番生首の話をしているのは君だよ――そんなことを考えていると、バスはお目当ての停留所に到着した。バスが揺れ、女の子が「きゃっ」と楽しそうな悲鳴をあげた。

 降りるのは僕ひとりだ。元々山奥で、客の少ない路線だ。登山や合宿が催される夏・冬ならまだしも、十一月にこんな場所を訪れる人は少ない。

 座席を立つとき、ついでに後ろの方を眺めてみた。

 誰も乗っていなかった。

 一番後ろの座席の真ん中に、女の子のマネキンの首がひとつ、ころんと転がっていた。

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