Day09 館

 生首が出たのは本館ではなく離れの方だという。夜、練習を終えた部員たちが一堂に会し酒盛りをしていたとき、誰かがふと生首の話を始めたらしい。それが「生首の話だったら俺にもある」「私にも」とつながっていった。

 生首は、そういう場所に寄ってくるものだ。


 本館だけでなく離れも、もう何年かほったらかされているらしい。それなりに荒廃してはいたけれど、よく見ればガラスは割れていないし、壁に穴が空いてもいないようだ。

(数年ならこんなもんか……)

 ふと、彼女の家を思い出した。男手が欲しいことがあると言われ、何度か招かれて訪れたのだ。周囲を高い垣根に囲まれた、二階建ての美しく立派な家だった。

「おうちというより、お屋敷って感じだね」

「なんか、何代か前のご先祖さまが、ずいぶんこだわって建てたみたい」

 寄せ木細工の廊下に、ステンドガラスから差し込む色とりどりの光が散っていた。頼まれていた家具の移動を済ませて廊下に出ると、彼女は姉の首を抱いて、その光景を眺めていた。

「姉さん、ここが好きだから」

「そうなんだ」

「わたしも好き」

 彼女の腕の中の首は、不自由そうに動いてこちらを向いた。それから遠くで鈴を鳴らすような声で「こんにちは」と言った。

「お邪魔してます」

 挨拶を返すと、生首はにっこり笑った。そして彼女に「いいひとじゃない」と話しかけた。

「そうね、いいひと」

「このひとなら、うちに住んでもいいわ」

 このときは彼女とはただの友人同士だったし、お姉さんの冗談だろうと思った。だから僕も笑って流してしまった。

 でも、もしもあのとき、本当にそうしていたらどうなっていただろうと、今でも思う。


 だから僕は、こんな場所に来たのだ。

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