Day12 ひらめき

「わたし、ちょっとひらめいてしまったかもしれない」

 さきこさんが急にそんなことを言い始めたのは、一年ほど前のことだった。

「生首ってやっぱり、縁もゆかりもない場所には行かないのよ。行きやすい場所があるのよね。以前生首が出た場所っていうのはやっぱりその、縁やゆかりがある場所じゃないかと思うのよ」

 要するにさきこさんが何を思いついたかといえば、「この家を動画の舞台に寄せたら、妹さんやあおいくんが来やすくなるんじゃないか」ということなのだ。それが正しいかどうかはともかく、二人を探そうとするさきこさんがいじらしかったので、私はそれに協力すると決めた。

 カーテンは変えた。椅子もかなり似たものになった。さすがにあんな広い場所には住めないから、今度は照明を変えようか? 動画に写るホールの天井には、ステンドガラスをあしらったペンダントライトがいくつもぶら下がっている。それに似たものを吊るしてあげたい。多少値が張ったとしても、さきこさんの希望を叶えてあげたい。

 それくらい、私は彼女に魅了されていたのだ。


 さきこさんはほとんどものを食べない。私が夕食をとる間は、近くの椅子の上にいて、にこにこしながらこちらを見ている。

 ピーコックグリーンのクッションの上に、艶のある黒髪が渦巻いている。肌は白く、頬にほんのりと桃色が差している。真っ黒な瞳で私を見つめる。彼女を見るたびに「ああ、綺麗だ」としみじみ思う。

「さきこさん、もしも妹さんや、あおいくんが家に来たらどうする? どうやっておもてなしする?」

 尋ねると、さきこさんはほのぼのと笑って「そういえば考えてなかった」と答えた。

「考えておいてよ。私、今度はライトを探しておくから」

「ありがとう。わたし、考えておくわね」

 正直生首なんてさきこさん一人がいればいい、と思うのだけれど、さきこさんが喜ぶのなら、客を呼ぶのもやぶさかではない。

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