首が出る部屋

Day11 おそろい

 ようやく探していたカーテンを手に入れて家に帰った。もう十年も前の防音カーテンで、廃版になっていたのを中古で買ったのだ。無駄に高かったが、仕方がない。

 さきこさんはリビングに置いたクッションの上で、また同じ動画を眺めている。

「好きだねぇ、それ」

 わたしが声をかけると、さきこさんはタブレットの方を向いたまま、「だって首の話をしてるんだもの」と言ってくすくす笑った。

「あおい」とかいう名前の、男性配信者の最後の配信である。本人が行方不明になって久しいというのに、未だにネット上を彷徨っている。

「もう何度も見てるじゃない」

「だって本物だもの、これ」

 さきこさんは、そういうことは聞けばわかるのだそうだ。私にはわからない感性があるのだろうと思う。彼女のそういうところも、強く私を魅了するものの一つだ。

 さきこさんは、生首である。彼女の面倒をみていた妹さんが心臓病を患い、余命わずかとわかった際、譲り受けた。妹さんと暮らしていたころのさきこさんは、物静かでいつもにこにこしていた。今は前よりもよくしゃべる。妹さんより、私の方が格段に察しが悪いからだ。

「なつかしいなぁ、あおいくん。元気かしら」

 さきこさんが呟く。

「行方不明なんでしょ?」

「うん。でも、ちょっと色々忘れて、迷ってるだけかもしれないから」

「なるほどねぇ」

 私は相槌を打ちながら、手に入れたカーテンをさきこさんに見せてあげた。さきこさんは目をまんまるく見開いて、「わぁ」と声を上げた。

「それ、動画に出てくるカーテンとおんなじ」

「でしょう。たまたまネットオークションで見つけたの。これでカーテンも、椅子も同じ。あの動画の場所とおそろい」

「うれしい」

 さきこさんはそう言って笑う。どうしておそろいにすると喜ぶのか、私にはわからないけれど、さきこさんが喜ぶのは嬉しい。

 動画に映っている場所――ペンション「カメリア」の離れはもう存在しない。どうやら取り壊されてしまったらしい。

 配信者である「あおい」も、尻切れトンボにぶつんと切れた映像を置き土産にして、行方をくらましている。

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