Day02 ひらめき

「あれーっ、谷山さん寝ちゃった?」

 一升瓶と紙コップを持った三崎くんがやって来た。

「なんだ、話したいことあったのに」

 そう言いながらその場にあぐらをかき、皆に紙コップを勧める。まゆか先輩が受け取ると、三崎くんはそこに日本酒を注ぐ。

「来る途中に買った地酒っす」

「地酒はいいけど、紙コップかぁ。ゼロ風情じゃん」

「しゃーないじゃないすか、お店じゃないんだから。ところで谷山さん、なんか今さっき生首の話してなかったです?」

「してたしてた」

「おれもあるんすわ~、生首の話」

 と言って、三崎くんも生首の話を始めたのには驚いた。なんだ、皆そんなに生首のネタを持っているのか? 生首同好会の合宿に来たつもりはないのだが。

「おれも子供のころ古いマンションに住んでて、そこがなーんか変な建物なわけっすわ。二階が全部ぶち抜きで空き部屋とか、半端なとこに半端な大きさの棚があったりとか、洋間にすげぇ和風の押入れがあったりとか……で、生首はその押入れに出るんすよね。その変な洋間が子供部屋で、フローリングを布団を敷いて寝てたんだけど、夜中にふっと目が覚めると、結構な確率で押入れがこのくらい開いてて」

 このくらい、と言いながら、三崎くんは親指と中指で十五センチくらいの幅を作ってみせる。

「……下段から、同い年くらいの女の子の首が覗いてるんすよね。真っ暗なはずなんだけど、なぜか押入れとその子は見えてて。気になって日中に押入れを探してみても、首なんかないんだよなぁ」

「へーっ、怖くはないんだ」

 まゆか先輩が、紙コップの日本酒をすすりながら感心したように言った。

「そーなんすよ。怖くないの。むしろその子のこと、すげぇかわいいなと思って。顔立ちが整ってたし、あと生首って猫くらいの大きさじゃないすか?」

 全然猫のようではないと思うが、なぜかまゆか先輩も、森下くんもうんうんとうなずいている。

「だから、何とかあの子を押入れから誘い出せないかな~と、小学生なりに画策したんすわ」

「ほほう。なにか閃いたかね?」

「閃いたっすね。近所のスーパーでお菓子を買ってきて、きれいな紙皿に載せて押入れの前に置くという、女心を超絶汲んだ仕掛けを……」

「かわいい閃きだなおい」

「まー小学生っすからね。でも効果あったんで。彼女、押入れから出てきてくれたんで~」

 そう言うと、三崎くんはニヤリと笑った。

「おおお? それで? どうしたん?」

 なぜかまゆか先輩が喰いつく。三崎くんはニヤニヤ笑ったまま、「まぁちょっとそこは、もうちょっと酒入ってからでないとね……」などとはぐらかす。

 さては三崎くん、与太話のオチが思いつかなかったな――そう思っていると、森下くんがぽつりと口を挟んだ。

「そういえば三崎んちのクローゼット、いつの間にか勝手に開くよね」

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首が出る話 尾八原ジュージ @zi-yon

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