Day03 祭り
森下くんの言葉を受けて、三崎くんの表情が変わった――ように見えた。明るい笑いがすっと拭き取ったように消えた、と思ったのだが、一瞬のちには元に戻っていた。
「あ〜。うちさぁ、あんま建付けがよくないんだよねぇ」
「ふーん」
「そんなこと言ってぇ〜、押入れの彼女がいるんじゃないのぉ〜?」
まゆか先輩がニヤニヤしながら三崎をつつく。「連れてきちゃったんじゃないのぉ? お菓子で釣ってさぁ〜」
ずいぶん気味の悪いことを言うものだ。自宅のクローゼットの中に女の子の生首があったらと想像すると、自分なら気味が悪くて仕方がない。
と思うのだが、なぜか三崎もニヤニヤしている。とても嬉しそうに笑っている。
「ままま、おれの話は一旦おいといて、まゆか先輩最近どうすか? 社会人っぽいエピソード聞かせてくださいよ〜」
「えー、別にないよ。面白い話」まゆか先輩は大袈裟に嫌がりながら、紙コップを三崎くんに差し出す。三崎くんは地酒をとぷとぷと注ぐ。
「ん、いや、あったかも。そういえば」
日本酒に口をつけたまゆか先輩が、とろんとしてきた目を大きく開いて言った。
「社会人エピ?」
「いや、生首。うち勤めてるのスーパーなんだけど、近所の神社で例大祭ってあってさ、そこで毎年飲み物とか食べ物売ったりして、なんやかんややらせてもらうわけだ」
「地元密着型スーパーなわけだ」
「まぁそんな感じなわけだ。そのとき先輩が新人集めてさ、注意事項を言い渡すの」
「どんな?」
「お祭りの日、神社の本殿の上に生首が載ってたら、無視するようにって」
「何すか、それ……」
森下くんが、新しいチューハイ缶を開けながら呟く。そういえば、酒は足りるだろうか? 幹事がしこたま買ってきたと言っていた記憶があるけど、森下くんのザルっぷりは計算に入っているのだろうか。
「だーから、生首だって! 見つけたらすぐに目をそらして、あとはほっとけって言われるんだぁ」
「ほっとかなかったら、どうなるんすか〜?」
三崎くんはなぜかニヤニヤしっぱなしだ。わからない。何がそんなに楽しいのだろう。
「なんかわからんけど〜、その生首が何か喋ってるらしくてさ。何言ってるかわかっちゃったら、本当にまずいんだって」
まゆか先輩はそう言って酒をあおる。「だから無視しろだって。なんか、十年くらい前にわかっちゃった人がいるらしくてさぁ」
「どうなったんすか?」
「わかんない。行方不明だって」
だって、の声と同時に、まゆか先輩は持っていた紙コップを、コンと音をたてて床に置いた。
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