Day14 館

 骨董市でランプシェードを買ってから、さきこさんはそればかり見るようになった。

 ランプシェードはシンプルなスタンドに被せて、リビングの小さなテーブルに置いた。さきこさんはテーブルの前のスツールに専用のクッションを置き、森を照らす夕焼けのような灯りをぼんやりと見つめている。夜眠るときも、そこから動かない。

 さきこさんがかまってくれなくなったので、寂しい。でもあんなに気に入っているものを、取り上げるわけにもいかない。

「あのランプシェードね、元はどこか大きなお屋敷にあったものだと思うの」

 さきこさんは、ぼんやりとシェード越しの光を見つめたまま、私にそんな話をする。

「最近よく夢に見るのよ。夢の中ではわたしにはまだ体があって、大きなお屋敷の中を好き勝手に歩いているの。お屋敷にはステンドグラスとか、このランプシェードによく似た照明がたくさんあって、わたしはなんだか懐かしい気持ちになるのね」

「そうなの」

 そのお屋敷に行ってみたい? そう言いかけて、やめた。さきこさんがそう望むのなら、その館を探すことはやぶさかでない。ただ、もしもそれが本当に存在したとして、その館に行くことができたとして。

 そしたらさきこさんは、そこからもう帰ってこないのではないか、という気がする。

「わたし、あのお屋敷で生まれたんじゃないかしら」

 夢見るように、さきこさんはつぶやく。「妹もあおいくんも、あそこに戻ってるんじゃないかしら」


 そのとき頭上で、どん、という音がかすかに聞こえたような気がした。

 私は天井を見上げた。

 音はもう聞こえなかった。でも、気づくとさきこさんも私と申し合わせたように、天井の方を見つめていた。

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