Day19 館

 三崎くんの彼女。

 わたしは思わず彼の顔をじっと見つめ返す。

 三崎くんからサシで彼女の話を聞くのは初めてだ。気にならないわけがない。だって三崎くんの彼女っていうのは。

「ていうか彼女も、そのお屋敷のこと知ってるって言ってた」

「そうなの?」

「そうだってさ。そこは首が集まってくるんだって。彼女も昔、呼ばれて行ったことがあるって。何に呼ばれたかは知らないけど」

 三崎くんはそう言ってグラスを回す。カランという音がして、氷が崩れる。

「昔って、いつぐらい?」

「わかんない。おれと出会う前のはずだから、たぶんもう二十年以上前だよなぁ。おれも彼女が何歳なのかよく知らなくって」

「そう……」

 何と返したらいいのかわからず、わたしは曖昧な相槌を打って、手元のグラスを傾けた。なんというお酒を出してもらったっけ? まるで意識していなくて、忘れてしまった。甘い液体が喉の奥に入っていく。

 なんだろう。つながるようでつながらない。合宿の夜のこと。もう一人いたかもしれない誰か。ペンション「カメリア」。生首が出るお屋敷。三崎くん。三崎くんの彼女。

「まだそのお屋敷はあるの?」

 もしもそこに首が集まってくるなら、わたしも行きたい。でも、三崎くんは首を横に振った。

「もうないらしい。ずいぶん前に取り壊されたって」

「そっか……残念だね」

 行ってみたかったのに、本当に残念だ。

「うん、おれも残念だな。彼女を連れて行ってみたかったんだけど――でもさ」

 三崎くんはグラスをテーブルに置き、真剣そのもののような顔でわたしを見つめた。

「完全になくなったわけじゃないんだよ。そこで使われてた建材とか窓ガラスとか、取り壊しのときにあちこちに売られて、今でも使われてるらしい」

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