首が出た話

Day16 おそろい

 大学オーケストラ部のOBOG会で、数年ぶりに三崎くんと再会した。明るい茶色だった髪を黒に戻し、派手な柄シャツではなくチャコールグレーのジャケットを羽織っている。今は広告代理店で働いているらしい。

 グラスを持ってわたしの隣に移動してきた彼と乾杯した後、「谷山さん、作家になったってほんと?」といきなり質問された。

 賞をとって文芸誌にマスクをつけた顔写真が載って以降、そう尋ねられることが増えた。自分では個性に乏しい顔だと思っているけれど、それでも覚えている人は覚えているものだ。

「まぁ、そう。大したもの書いてないけど」

「マジか。すげぇな。かっこいいじゃん、自分の本が書店に並んでるとか」

「まぁ、それは結構感動する。でもあんまり儲かってはないな」

「賞とってもそうなん? 現実は厳しいねぇ」

「厳しい厳しい」

 祖父の遺した家に住んでいるし、不動産収入があるから生活に余裕はあるけれど、それがなかったら作家一本で食べていくのは厳しいだろう。

 服装はずいぶんシックになったけれど、三崎くんは左耳にちょっと目立つピアスをつけている。小さいけれど色のついた宝石が嵌め込まれていて、それが地味な色合いの服装によくマッチしていた。いい色合いだなと思って眺めていたら、「これ、アレキサンドライトだよ」と教えてくれた。

「へぇ。色が変わるやつでしょ」

「そう。彼女の誕生石」

 アレキサンドライトは六月の新しい誕生石なのだと、三崎くんは教えてくれた。六月生まれの彼女とおそろいにしたくて、ペアで買ったものを片方ずつ分けているらしい。三崎くんは十一月生まれなのに、自分の誕生石よりも、彼女と同じものを身に着けることを優先しているのだ。

「彼女って、ずっと同棲してる子?」

「そりゃそうよ」

「結婚は?」

「できると思う?」

 尋ねられて、わたしは笑った。できるとは思わない。できるわけがない。たぶん彼女に戸籍なんかないだろう。

「結婚指輪買っても、嵌められないよね」

「ないね~」

 三崎くんにとっては、ピアスが結婚指輪の代わりみたいなものなのかもしれない。

 いいなぁ、と思う。

 わたしはまだ、見つけられていない。

 そういう相手を見つけて、おそろいのピアスを着けたら、どんなに幸せだろう。

「あのさ、三崎くん」

 わたしは声のトーンを落とす。

「わたしたちが三年のときの夏合宿、覚えてる?」

「……覚えてる。『カメリア』でしょ」

「そう。じゃあ、最終日の夜のことも覚えてるよね?」

 三崎くんはわたしの方を向く。それからすぐにそらす。グラスに残った、泡の消えたビールを一口飲む。

「覚えてるけど、覚えてない」

「やっぱり」

 三崎くんも、わたしと同じだ。

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