Day17 ひらめき
大学三年生の夏合宿最後の夜、確かにわたしは結構酔っ払っていたし、時々寝落ちしていた気もする。ただ普段から、深酒をしても記憶をなくすということは滅多にない。
でもあの夜に限っては、不自然なほど記憶が欠けているのだ。
「おれたち、首の話をしてたのは覚えてんだよな」
三崎くんがひそひそ声で言った。わたしもうなずく。
「三崎くんの話、夢うつつだけど聞いてたよ。押入れにいた女の子の首の話だよね」
「うん、おれも谷山さんの話覚えてる。ベランダに来てたおじさんの話」
「あとはまゆか先輩と、森下くんも話してたよね」
「そう、話してた。そうなんだけど……あのさ」
三崎くんが口元に手を当て、眉をひそめる。
「おれの記憶違いかもわかんないけど、もう一人いなかった?」
「……もう一人?」
わたしは指を折って数える。わたし、三崎くん、まゆか先輩、森下くん、それから――?
「いや、いなかったと思うけど……誰?」
「おれもわかんないけど、なんか……いなかった?」
「いや……あのとき大まかにだけど、パートごとに分かれてたよね? あのときいたボーンは、確かわたしと森下くんとまゆか先輩だけだよ。途中で三崎くんがトランペットから出張してきて」
当時、トロンボーンの現役部員はわたしと森下くんしかいなかった。まゆか先輩がエキストラをやってくれて、ぎりぎりサードまで回せるねって話を何度もした。
だからトロンボーン奏者に限れば、四人目はいないはずなのだ。もう一人、三崎くんのようにどこかから入ってきた? どこから?
でも、「もう一人いなかった?」と聞かれた瞬間、頭の中で何かひらめくような感覚があった。
一瞬通りかかった記憶のきれっぱしを掴みかけたような感覚。
「なんか、もうひとつ首の話を聞いたような気がするんだよな……谷山さんとかと話したら思い出すかと思ったんだけど。まゆか先輩、子ども生まれてからこういうとこになかなか来られなくなっちゃったし、森下は連絡とれないらしい」
「そっか……」
わたしは首をひねりながら、首の話、首の話と小声で呟いた。
まゆか先輩の、神社の本殿の屋根にいる首の話。
森下くんの、首が落ちてくるお屋敷の話。
それから。
(いいなぁ~)
ふと、そんな台詞が頭の中に浮かんだ。
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