Day27 ひらめき
「わたし、またちょっとひらめいてしまったかもしれない」
さきこさんがそんなことを言うとき、わたしはちょっと身構えてしまう。
だって、元はと言えばそこから始まったからだ。
「いつも音がする辺り、天窓にできないかしら。そしたら何が来ているのか、外に出なくてもわかるでしょう?」
さきこさんはそう言いながら天井を見つめる。今日も彼女は綺麗な瞳をしている。今は専用のクッションではなく、私の膝の上に抱かれている。頭蓋骨の感触が心地よい。
さきこさんの視線の先には、ペンダントライトが見える。例の骨董市で購入したものだ。
「……いい考えだけど、お金がないわね」
私がそう言うと、さきこさんは「ああ!」と驚いたような声をあげる。
「そこまで考えられなかったわ。言われてみれば、そのとおりね。あそこだけ屋根を天窓になんて、なかなかの大工事ね」
「そうよ、さきこさん」
「そうよねぇ、あそこだけ透明だったらいいなって思ったんだけど。いつも外に様子を見にいってもらうけど、いなくなっちゃった後なのよね」
そう。まだそういうことになっている。
「そもそもあの音をたててるものって、本当に生首かしら」
ふと、尋ねてみる。すると、
「生首よ。それだけはわかるの」
さきこさんはいつものようにおっとりと、でもきっぱり言い切った。
そんな話をしたちょうど次の日、家に泥棒が入った。
盗られたものは、例のステンドグラスでできたランプシェードだけだ。
さきこさんはずいぶんがっかりしてしまった。私も、そんな彼女を見ているのは辛い。
それからというもの、もう家の屋根に何かが「どん」と落ちてくることはなくなった。やっぱりあのランプシェードが特別なものだったのだ。
泥棒の正体はわからない。わからないけれど、たぶん、ああいうものを集めている人がいるのだ。
「さきこさん、私ひらめいたかも。旅行へ行きましょうよ。景色のいいところへ」
慰めにならないだろうか、と思ってそう言うと、さきこさんは微笑む。
「そうね。いつまでも悲しんでいたってしかたがないわね」
私は安堵する。これでいい。
さきこさんの妹やなんかが見つからなくたって、他の生首がやってこなくたって、私たちのこんな暮らしが続くのなら、それで構わない。
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