第27話 残念ながら『配信者《ストリーマー》』に結婚システムは導入されていません

「そこまで! 勝負ありじゃ!」


 ギルドマスター・≪ニャンニャン姫≫の終了宣言。


 なんとわたし≪アルミちゃん≫は、疑似戦闘とはいえ、初陣を勝利で飾ったのだった!


【戦闘終了。戦闘状態、および変身状態が解除されます。≪アルミちゃん≫、初戦闘お疲れ様でした】


「ありがとー、≪サポちゃん≫! すっごい戦いやすかったよー。わたし、『魔術師マジシャン』のJOBで戦うのは初めてだったのに、迷いなくやれたもん!」


 適切なタイミングで適切なスキルをコールしてくれるから、ホント助かったよ!


【私はサポートAIです。≪アルミちゃん≫が気持ちよく勝利するために全力を尽くすだけです】


 そう言って≪サポちゃん≫は、「当たり前のことです」といった雰囲気を醸し出しつつ、ツンとすまし顔で空中を歩き出す。

 でもね、しっぽが普段よりも小刻みに左右に揺れているし、髭がピクピクしているよ? やっぱり≪サポちゃん≫だって初の実戦で成果が出てうれしかったんだよね? 素直じゃないなー♡


「≪アルミちゃん≫、おぬし、なかなかやるのぉ。まさかここまでとは思わなんだ」


 ≪ニャンニャン姫≫は、目を真ん丸にして、驚きを隠そうともしなかった。こっちのネコさんも耳としっぽがピンと張って毛が逆立っていた。

 少しは驚いてもらえて良かった、かな?

 

「お姉ちゃんかっこ良かった! ボクもあんなふうに戦えるようになりたいな!」


 ≪ピート≫くんも近寄ってきて、わたしに抱き着いてくる。お互いの勝利を祝ってハグだー♪


「≪ピート≫くんも良い感じだったんだよね? ちょっとトイレに行っていて見られなかったのが残念だなあ」


 どんな戦闘だったのかな。

 AOで高レベルの『調教師テイマー』は見たことなかったし、どんな戦い方をするのは興味はあるんだ。


「ボクは戦っていないよ。初級モンスターをテイムして見せただけ~」


「なるほど、そっか。『調教師テイマー』だもんね。それだけで十分実力が見せられるよね」


 別に最前線に立って戦う必要はない。

 どっちかというと後方支援的なJOBだもんね。


「いや~、完敗でした。お手合わせありがとうございました」


 いつの間にか復活した『騎士ナイト』くんが握手を求めてくる。

 後ろには『魔術師マジシャン』くんと『神官プリースト』ちゃんも一緒だ。なぜだか≪ピート≫くんもわたしの隣に並んで、3人と順番に握手を交わす。


「どもども。後遺症とかはない、ですよね?」


 念のため確認。

 闘技場エリアだから、戦闘状態が解除されれば、気絶していても自動復活、そしてHP・MPも全快するはず。でもみんな黒焦げだったから心配……。


「問題ありませんよ。この通りです」


 軽く長剣を振るって見せてくる。

 無駄のない動き。

 よく訓練されているね。


「おぬしたちはあとで説教じゃな。レベル差がありながら、一太刀も浴びせられずに負けるとはなさけないのじゃ……」


 ≪ニャンニャン姫≫がため息を吐く。

 と同時に震え上がる3人。

 どうやら≪ニャンニャン姫≫による説教とは、とても恐ろしいものらしい……。なんかごめんね。ちょっとくらいやられておけば良かったね。


「≪ピート≫、≪アルミちゃん≫。2人とも文句なく合格じゃ。ぜひ我が『猫の眼』ギルドに迎えたいのじゃ」


 おおー、やったー!

 わたしと≪ピート≫くんは顔を見合わせてにんまりと笑い合う。


 これで『「猫の眼」ギルドに加入しよう』のクエストは達成かな!

 

「ギルドへようこそ!」


「歓迎する」


「『調教師テイマー』と……『魔術師マジシャン』の嬢ちゃん!」


「なかなか豪快な戦いだったな」


「次は俺とも手合わせ願いたい」


「彼氏いる?」


 それまでわたしたちの試験を見守っていたギルドメンバーの人たちが、闘技場付近に集まってくる。


 いや……わたしは『魔術師マジシャン』ではないんだけど……。

 彼氏はいませんけど、15歳なので募集もしてません♪


 リアルな結婚相手なら募集を……。


【≪アルミちゃん≫、残念ながら『配信者ストリーマー』に結婚システムは導入されていません】


 なんで⁉

 そういうのってAO2全体に実装されているものだよね?

 どうして『配信者ストリーマー』限定で未実装なの⁉


【≪アルミちゃん≫が誰かのものになったら悲しいです】


 それは……完全に私情では⁉

 わたしだってゲームの世界の中でくらいは結婚したいんですけど⁉


【でもオーラムオンラインの時にも最後まで未婚でしたよね】


 えっとそれは……。

 ほら! わたし、アイドルだし! みんなのアイドルプリーストだったから、誰か特定の相手と良い感じになったら揉めるじゃない? サークルクラッシャーならぬギルドクラッシャーになりたくなかったからね!


【相手……いませんでしたよね。お相手がいるカップルを、ずっとうらやましそうに見つめるだけでしたよね】


 そうでした!

 本気でわたしに言い寄ってくる人なんていませんでした!

 なんでよ! こんなにかわいいのにおかしいでしょ!

 現実でもゲームでもモテないの! わたしってもしかして、なんか前世でとんでもない悪行を犯して、未婚の呪いでも受けていたの⁉


 ぐすん……。


【それは……残念でしたね……私はずっと一緒にいますから……】


 ≪サポちゃん≫が真っ白なしっぽで、器用にわたしの涙を拭ってくれた。

 ありがとね……。

 わたし、強く生きるよ……。


「お取込み中のようじゃが、そろそろ事務的な手続きに入りたいのじゃ。良いかえ?」


 

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