第20話 同接数が死ぬほど少ないので、運営的には大赤字です

「坊主。いや≪ピート≫」


「うん、ボクは坊主じゃなくて≪ピート≫って言います」


「『調教師テイマー』の≪ピート≫。間違いない、ボスが探していたのはお前だよな。あ、このボスって言うのは俺たちのボスって意味な」


 だからそれはわかるってば。

 って、ボスが探していた?≪ピート≫くんを?


「俺たちと一緒に来てもらうぜ」


 そう言って覆面アサシンのお兄さんたちが≪ピート≫くんを取り囲む。

 手を繋いでいたわたしは、揉みくちゃにされて若干よろめいてしまった。


「ちょっと! 乱暴反対!」


【戦闘モードに移行しますか?】


 え、≪サポちゃん≫、それどういうこと?


【ここは任意選択が可能です。積極的に戦闘を仕掛けることが可能です】


 マジで。

 5人のアサシン相手……。

 わたし『配信者ストリーマー』で戦闘スキルなし……。


 普通に勝ち目なしだよね?


【はい。戦闘を選んだ場合、高確率で負けイベントになると予想されます】


 それはちょっと……。

 せっかく生配信を見てくれている人に、いきなり負けイベントは見せたくないなあ。


【ちなみに、今の同時接続数は132です】


 132人が見てくれているってことだよね。それってわりと多い?


【死ぬほど少ないので、運営的には大赤字です。大損害です】


 OH。

 どうしましょう……。


【探し物クエスト中ですし、絵面が地味なので致し方ないかと】


 だったらもっと派手にしたほうが良い?

 無理にでも戦う?


【負けるとおそらく、さらに同接が減ります】


 じゃあ戦わないほうが良いね……。


【戦わないと絵面が地味なので、このままだと確実に同接が減ります】


 わたし、どうしたらいいの……。

 もういっそのこと脱ぐ?


【配信チャンネルのアカウント自体がBANされてしまうのでやめてください】


 脱ぐのもダメ……。

 完全に詰んだわ。


【≪アルミちゃん≫は極端ですね。脱がず、戦わず、同接を増やす方法を考えてください】


 簡単に言ってくれるのね……。

 そういうのをアドバイスしてくれるのがサポートAIの役目なんじゃないの?


【そうですね。まさにそのために存在していると言っても過言ではありません】


 そうなの⁉

 じゃあなんでアドバイスしてくれないの⁉


【頼まれていないので】


 なんて機械的なお答え……。

 そっか。わたしが頼まなかったせい……。

 じゃあ、アドバイスください!


【心がこもっていないのでお受けしかねます】


 ええ……。心って……。

 ≪サポちゃん≫様! お願いします! 至らぬわたくしめに、どうか寛大なアドバイスをお与えくださいませ!


【卑屈過ぎます。私が悪いネコに見えるので、それはちょっと困ります】


 いや……こうして頭を下げてちゃんと頼んだんだから教えてよ……。


【仕方ありませんね。今回だけ、特別ですよ】


 なんでちょっと偉そうなの……。


「って、ああっ! お兄さんたち、ちょっと待って!≪ピート≫くんを連れて行かないで!」


 ≪サポちゃん≫の与太話に付き合っていたら、アサシンの集団に≪ピート≫くんが連れて去られようとしている! 助けなきゃ!


「なんだ? お前も一緒に行きたいのか?」


「え……はい! わたしも一緒に行きたいです! 頼んだら連れて行ってくれるの?」


 って、きっとボスのところ、だよね?

 ぜんぜん話聞いてなかったけど。

 

「それなら先に言えよ。ずっと黙っているから行かないのかと思っちまったぜ」


「あ、すみません。ちょっと考え事を……」


「お姉さんも一緒に来てくれるの……?」


 ≪ピート≫くんが不安そうな目でこちらを見てくる。


「もちろん! お姉ちゃんが一緒にミミちゃんを探してあげるって約束したじゃない!」


「ありがとう! ホント言うとね、ボク、ちょっぴり心細かったんだ……」


「ごめんごめん。絶対1人にしないからね。ちゃんと≪ダレン≫さんのところまで送り届けてあげる」


 アサシンたちの間に体をねじ込み、≪ピート≫くんの手を取る。

 震えていた。

 ホントごめんね。


「それで、これからボスのところに行くんですよね? 秘密結社のアジトはどこですか?」


 なんか友好的な感じで連れて行ってくれるっぽいけど、ボスが同じく友好的とは限らないからね……。もしかしたらいきなり拘束されて地下牢に閉じ込められたりとか……。地獄への片道切符か……。


「秘密結社のアジト?」


 覆面のアサシンたちがお互いに顔を見合わせている。


「俺たちが向かっているのは、そこの『猫の眼』ギルドだが?」


 1人のお兄さんが、目の前のかわいらしいネコのイラストが描かれた看板を指さす。


「ねこのめぎるど?」


 え……ギルド? 通りに看板が出ているってことは、この街公認のギルドってこと? そんな格好しておいて、秘密結社でも殺し屋集団でもないの⁉


「うちのボスが希少種に目がなくてな。どうしてもコレクションに加えたいと駄々をこねて、≪ダレン≫さんに頼み込んで譲ってもらったんだよ」


「ん? 頼み込んで譲ってもらった? 盗んだんじゃなくて?」


 急に話の流れが変わってきたよ?


「なんで俺たちが≪ダレン≫さんのところで盗みを働かなきゃなんねぇんだよ。そんなことしたら、ギルドの看板に泥を塗ることになっちまう」


「あ、はい。そうですね……」


 え、もしかしてこの人たち、職業が『暗殺者アサシン』ってだけで、人殺し集団じゃない、の?


【≪アルミちゃん≫、基本的なことを忘れているのかもしれませんが、PKerは街に入れません】


 ああっ! そうだった!

 プレイヤーを故意に攻撃してHPを全損させるとPK行為による罰則オレンジペナルティを受けるんだ! そうなると謹慎1週間。その間は街に入ることは許されなくなる……。あまりに縁遠い話ですっかり忘れていたルールだわ。


 じゃあこの人たちは……。


【一般のプレイヤーです。『猫の眼』ギルドのギルドメンバーですね】

 

 この人たち……普通のプレイヤーさんだった……。

 じゃあこれから向かうボスって言うのは?


【『猫の眼』ギルドのギルドマスター・≪ニャンニャンティア≫さんですね】


 にゃんにゃんてぃあ……なんかかわいい。ネコっぽいし……。


 あー、クエスト欄もいつの間にか変化していて『「猫の眼」ギルドのギルドマスターに挨拶しよう』になっている!


 あれ? じゃあさっきの『移動ポーション屋』はいったいなんだったの?

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