第19話 クエスト:『謎の誘拐集団と交渉せよ』

 時限式クエスト残り2分。

 わたしと≪ピート≫くんは、あえて街のはずれの人気のないほうへと足早に進む。


 これで予想が外れていたらもうダメだ。

 と、思った瞬間だった。


「おい、ルーキー。ケガしたくなかったら、その子を置いてとっとと失せな」


 建物の陰から、覆面をつけた男たちが5人現れた。


 よっしゃ、かかった!


「な、なんですか、あなたたちは⁉」


 なんてね♪


「俺たちはルーキーには用がないんだ。お駄賃がほしいならやるから、とっとと失せな」


 カチーン!

 おうおう、わたしを誰だと思ってるだい?

 そんじょそこらのルーキーと一緒にされちゃー困るってものだーよー!

 このままお駄賃もらって立ち去ったら、クエスト失敗になってまた同接が減るでしょうが!

 キミたちにはそういうことわかっていっているのかね⁉

 じゃあお駄賃と言わず、賠償金を払ってもらおうか!

 そうだね……1兆[SEED]で手を引こうじゃないか!


 なーんて言ってる場合じゃない!

 時限式クエストがー!


「ちょっとお兄さんと揉めている暇はないんですよ! わたしたち、いなくなってしまった子ネコを探していて忙しいんで! あーもしかして、子ネコ探しを手伝ってくれるんですかぁ?」


 どうか犯人でいてください!

 もう時間がないの!


「子ネコ? ああ、あのボスがほしがっていた希少種のことか。安心しな。ブラックウィングレパードなら俺たちが保護してやっている」


 やったー! こいつらが犯人だー♪

 ん? ブラックウィングレパードって何?


「その顔は気づいてなかったみたいだな。あれはネコなんかじゃないぜ。黒豹の子どもだ。しかも希少種だぜ~。ボスモンスター・ブラックウィングレパードの子どもときた」


「ミミが黒豹の子ども……?」


 ≪ピート≫くんが恐る恐る尋ねる。

 さすがに半信半疑といった様子だ。

 にわかには信じがたいけれど、わざわざミミちゃんのことを盗み出した理由はこれでわかったね。


「しかしなあ、ボスモンスターの子どもが街中をうろついているっていうんだから、最初に聞いた時は、さすがにボスにからかわれているのかと思ったぜ。あ、このボスって言うのは俺たちのボスって意味な」


 いやわかるけど……。

 めっちゃフランクに話しかけてきているんですけど、あなたたちの用事はなんでしたっけ?


 うわっ、時限式クエストの残り時間が30秒切ってる!

 なんとかしなきゃ!


「あのー。わたし、≪ピート≫くんにその黒豹のミミちゃんのことを一緒に探すって約束をしたんですけど、お宅のボスのところにいるってことで間違いないですか? 場所は特定したってことで良いですよね?」


 残り10秒。

 頼む!


「ああ、間違いなく預かっているぜ。しかし、俺たちも困っているのよ……」


 やった! クエストのカウントが止まった!

 それにクエスト達成判定出たよー!


 ミミちゃんの居所が判明したので、狙い通り時限式クエストはクリアしたことになったらしい。綱渡りだけど何とかなった、かな……。


 そして今のクエスト欄の表示は『謎の誘拐集団と交渉せよ』となっている。

 交渉、ね。

 この連続クエスト……いつ終わるかわからないから大変だよ。


「お兄さんたちは何に困っているんですか? わたしたちも困っているんですよー。ミミちゃんは小っちゃいから、2時間おきにミルクを上げないと死んじゃうかもしれないし! ちゃんと世話をしてくれているんですか⁉」


 そこのところははっきりさせて、≪ピート≫くんを安心させてあげたい。


「そいつは問題ねぇ。希少種に死なれちゃ困るしな。モンスター研究医に診させているから、健康状態は間違いないぜ」


「だってさ。≪ピート≫くん、ひとまず安心だね」


「うん……良かった……」


 ≪ピート≫くんが少し安心したような表情を見せ、小さく息を吐いた。

 とりあえず安全は確保した。

 じゃあ、ここからクエスト通りに交渉ですね。


「それで、何の用事なんでしたっけ? ミミちゃんを会わせてくれるんですか?」


 それならそれで話は早くて、ついていって隙を見てからミミちゃんを奪還して逃げれば良い……なんて都合よく行くわけないか。わたし、Lv.1の初心者でしたわ。カッチカチのハイプリーストのつもりでいたけど、今は触られたらヒュン〇ルするくらいのHPしかないんだったわ。何とか戦闘は避けたいなあ。


「おい、そこの坊主。≪ピート≫だろう? お前、『調教師テイマー』なんだよな?」


 ん、お兄さんったら急に何言いだしたの?

 こんな小さい子が冒険者登録しているわけないでしょ。


「うん、そうだよ」


「ええっ⁉≪ピート≫くん冒険者登録してるの⁉」


「うん、5歳の時にお母さんと一緒に登録した」


「5歳ってめっちゃ早い……。しかも『調教師テイマー』なの⁉ てっきり『魔術師マジシャン』を目指しているのかと思ってたよ」


 だって≪ダレン≫さんの息子さんなんでしょ?

 大魔法使いの子が魔法を使わない職業に就くなんて。


【≪アルミちゃん≫。職業選択は本人の資質によるところが大きいのです。もちろん遺伝的な要素は多分に影響しますが、複数の職業選択が可能となった場合には、冒険者登録の際に本人の自由意思が尊重されます】


 へぇー。そういうものなんだ。

 VRMMOのつもりでプレイしていると、なりたい職業に転職すればいいやーって軽く考えちゃいがちだけど、ここで生きる人たちにとってみれば生き死にに関係する重要な選択なんだよね。


【そうです。素養なき職業に就くことは許可されていません】


 じゃあ、≪ピート≫くんは『調教師テイマー』の資質があったってことなんだ。こんなに幼いのに……。


「いずれは魔法も使える『魔術調教師マジックテイマー』になりたいなって思っているんだ~」


 何次職、それ?

 まったく聞いたことがない職業なんですけど。


【現在はまだ発見されていない職業ですね。≪ピート≫の中では職業ツリーが見えているのかもしれないです。案外、彼が最初の『魔術調教師マジックテイマー』になるのかもしれません】


 職業ツリーが見えているって、どういうこと?

 AO2はVRMMOで、運営が開発して実装した職業しか解放されないんじゃないの?

 AOでも3次職までしか実装されていなかったよね。


【その辺りはまだ語る時ではないということで。後々明らかにいたしましょう】


 えー、何その含みのある言い方!

 知りたい知りたーい!

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