第22話 ここがド〇クエの世界観ならなー。合法的に壺を壊して金銀財宝ゲットできるのにー。

 アサシンのお兄さんは、ボス部屋――ギルドマスターの執務室の扉を3回ノック。返事を待たずに扉を開ける。


「ボス! ご命令通り『調教師テイマー』のガキを連れて参りやした!」


 背筋ピンッ。

 背中から緊張感が伝わってくる。

 アサシンのお兄さんは、執務室の入り口でわたしたちの前に立ち、大声で中の人物に向かって呼びかけた。


「ご苦労じゃった。しかし何度も言うておろう? わらわのことは『ボス』ではなく『姫』と呼ぶのじゃ」


「かしこまりました! ボス!」


 姫はずいぶんかわいらしい声だなあ。

 「猫の眼」ギルドのギルドマスター……なんとかニャンニャンの人はずいぶん若そう。まさか子ども? まさかね。


【≪ニャンニャンティア≫さんです】


 そうだった。

 猫の≪ニャンニャン≫さん。


「言っておるそばから……。もう良い。下がっておれ……。そなたたちはもっと中に入るのじゃ」


 たぶんわたしたち、のことだよね?

 アサシンのお兄さんが振り返って目配せしてくる。体を半歩ずらして道を譲ってくれたのでわたしと≪ピート≫くんは前に出て、ギルドマスターの部屋へと足を踏み入れた。



「こ、これは……」


 部屋の外観からは想像もできないほど豪華な――。


「ま、まぶしい……。財宝部屋……?」


「すごい……」


 わたしの手をギュッと握りながら、≪ピート≫くんも目を丸くして立ち尽くしていた。


 おおよそギルドマスターの執務室には見えない。

 なんていうか、ラスボスを倒した後に出現する財宝部屋のように……金銀財宝が溢れ……でもそれらが美しく飾られている。金細工・銀細工、そして宝石・宝玉のような宝飾品だけではない。細工にこだわっていることが一目でわかるようなテーブル、イス、家具の数々。たぶん高価なんだろうなーと思われる模様の細かい織物などが並んでいた。


「よく来たのぅ。遠慮するな。もっと近う寄るのじゃ」


 部屋の1番奥の巨大な机のほうから声が聞こえてくる。

 人の姿は見えない。

 ということは……まさかあの机がギルマス⁉


【≪アルミちゃん≫、本気で言ってます~?】


 ちょっとボケてみただけですぅ。

 たまにあるじゃない? 異世界転生したら剣でした、とか、異世界転生したら自動販売機でした、みたいなやつ。


【つまらないボケは絶対にやめてください。視聴数が減ります。今の合算同時接続数は230】


 増えてるじゃん!

 200人突破しているじゃん!

 やったね!


【それはこの部屋の宝飾品や調度品が美しいからです】


 そうですかー。

 そうですよねー。

 いや、マジでこの部屋すごくない?

 これだけたくさんあったら、1個くらいパクっていってもバレなそう……。


【新しいクエストが始まると予想しますが、それでも盗みますか?】


 新しいクエスト……?


【財宝を盗んで死ぬまで逃げきれ】


 ……やめておきます。

 世間様に犯罪行為をしている様を配信するわけにはいかないもんね。

 あーあ、ここがド〇クエの世界観ならなー。合法的に壺を壊して金銀財宝ゲットできるのにー。


【ド〇クエの世界でも、おそらくギルドマスターの部屋で盗みを働くとなんらか罰せられると思いますが。それにここにある壺を1つでも傷つけたりしたら、≪アルミちゃん≫が1000年くらい働かないと弁償できないと思います】


 ヒエッ……。

 あの傘立てみたいな見た目で、無造作にロッドとかスタッフが刺さっているあの壺も?


【私の『鑑定』スキルによると、あの壺には『魔力増幅』の効果が付与されていますから、おそらく……1億……10億[SEED]の価値はあると思います】


 傘立てじゃなくて、ああやって杖の効果を高めていたのね……。

 じゃああっちのローブが掛かっている大きなハンガーみたいな――。


「おぬしが≪ピート≫じゃな。顔がよく見えん。もっと近う寄るのじゃ」


 そうだった。

 ギルマスの≪ニャンニャン≫さんは≪ピート≫くんに用事があったのでした。


 だけど、その声に気後れしているのか、≪ピート≫くんはわたしの手を握ったまま動こうとしない。


「≪ピート≫くん、ギルマスさんが呼んでいるよ」


 耳元で囁いて、背中を押してみる。


「でも……」


 モジモジ。


 しかたないなあ。


「お姉ちゃんも一緒に行ってあげるって」


 ≪ピート≫くんの手を引いて、ギルマスの≪ニャンニャン≫さんの声がするほうへと進む。そういえばこのふかふかの絨毯は踏んでも弁償しなくて良いんですよね……? 土足だけど平気なのかな……?


「ちと待つのじゃ。わらわがそっちに行く」


 机の奥からがさごそと音がしてから、トンッと床に軽い物が落ちるような音が聞こえてくる。机の陰から1人の女の子が現れた。


「お初じゃの。わらわが『猫の眼』ギルドのギルドマスター・≪ニャンニャンティア≫じゃ。『姫』と呼ぶことを許すぞよ」


「か、かわいいーーーーーーーーー!」


 ネコミミ!

 しっぽ!

 ロリロリの獣人さんだぁぁぁぁぁぁぁ!


「こ、これ。わらわに頬擦りするのをやめるのじゃ! 耳を触るな! あごを撫でるんじゃないニャ……ゴロゴロ」


 反応がネコだー!

 あごを撫でたら目がとろんとしてゴロゴロ言い出したー!


「ぼ、ボス⁉」


 アサシンのお兄さんが止めようとして近寄ってくるのを「だ、大丈夫なのじゃ」と言って、≪ニャンニャン姫≫が制止した。


「おぬし……触り方がうまいの……。名は何と申す?」


「はい! わたし、≪アルミちゃん≫です! 今日AO2この世界にやってきたばかりのルーキーですが、ユニークJOB『配信者ストリーマー』をやっています! 高評価とチャンネル登録よろしくお願いします!」


 まずはご挨拶!

 ちょっとスキンシップと前後しちゃったけれどね。


【≪アルミちゃん≫、同時接続数が20000を越えました! もっと≪ニャンニャンティア≫さんと絡んでください!】


 えっ、にまん⁉

 いきなり増え過ぎじゃない⁉

 ネコミミロリロリ美少女ってそんな数字もってるの⁉


「ふむ、≪アルミちゃん≫と申すか。名前も良いの。気に入ったぞよ。そうじゃ、イチゴジュースを飲むかえ? とっておきのがあるのじゃ。そちらの≪ピート≫も一緒にどうじゃ?」


「あ、ありがとうございます……?」


「ありがとうございます?」


 ≪ニャンニャン姫≫って笑うと八重歯がかわいい……でもなんで急にイチゴジュース?

 AOでは定番の飲み物だけど……。


「めっちゃおいしい……」


「とってもおいしいです!」


 わたしも≪ピート≫くんも、受け取ったコップの中身を一気に飲み干してしまった。こんなおいしいイチゴジュース飲んだことない……。


「そうかそうか。おかわりもあるのじゃ♪」


 ニャンニャンさんは目を細めて笑うと、わたしたちのコップに並々とイチゴジュースを注いでくれる。


 あー、おいしい!

 フレッシュジュースとも違う……。よく煮込んだイチゴジャムをお湯で割ったものなのかな。すごく甘くて蕩けそう。


「ところでおぬしたち、『猫の眼』ギルドに入らぬかえ?」


 ほぇ?

 いきなりギルド勧誘⁉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る