第9話 サ終のカウントダウンに参加できない
「≪オーラム≫さん、この『Wish List』っていうのがわからないんですけど」
説明文を読んでも意味がわからない。
『サポートAIプログラムが主体となって、戦闘時の使用される『Wish List』の管理を行います』ってなんですかね?
「さすが≪アルミちゃん≫様、お目が高い! そちらはですね、『
「おお、新機能なんだ? 説明お願いできますか?」
わくわく。
戦闘時って言うくらいだから、そういう攻撃スキルなのかな。短冊に願いを書いて攻撃する、とか?
「今この場でできるのは、戦闘時にのみJOB選択やスキル選択に使用できる機能、という説明のみになります。詳細につきましては、オーラムオンラインPhase.2の中でご説明することになっています」
「ふーん。つまり企業秘密的な?」
「オーラムオンラインPhase.2の目玉機能の1つなので!」
ニヤニヤと笑う≪オーラム≫さん。
まあ、まだ契約前だと話せないこともあるっていうのはなんとなく理解できる。どんな感じなんだろうなあ。
「あ、じゃあ1つだけ質問が」
「どうぞ!」
「戦闘時の機能ってわざわざ言うってことは、AO2では非戦闘時と戦闘時で使えるスキルが違う、もしくは増える、という認識で合っていますか?」
「そうです! オーラムオンラインでもセーフエリアで戦闘スキルが制限されていますよね。それと似たようなイメージで考えていただいて問題ありません!」
でも似ているとはいっても、きっとそれとは違っていて、わざわざ『戦闘時にだけ使用できる』という新たな制限が加わっているのには理由がありそうね。JOBが『
「んー、まあ契約書はだいたい目を通しました! わからないことだらけですけど、がんばろうかなって思います」
ちゃんと体の管理もしてくれるなら、断る理由もないかなーって。
今の仕事よりはずっと楽しそうだし! いや、今の会社はなくなっちゃうんだった……。あれ? 最初からわたしに選択肢なんてなかったんじゃ?
「ありがとうございます!≪アルミちゃん≫様ならそう言ってくださると信じていました! ささ、下段の署名欄にサインをお願いします! 気が変わらないうちにすばやくさらさらっと!」
「署名欄、署名欄……ここですね? ん、気が変わらないうちに? なんでそんなに急かせるの?」
「急かしてなんていませんよ⁉ でも! サービス開始までに時間もありませんし!」
「まあ、そうね? そろそろカウントダウンって時間になるかも」
さすがにもうお昼近いし、ログインする人も増えていそうだよね。最後くらいはみんなで集まってバカ話をしたいな。顔見知りがいると良いなあ。
「大変申し訳ないのですが、契約完了後、≪アルミちゃん≫様にはこの場で、すぐにデータコンバートの準備に入っていただきたいのです」
「えっ、サ終のカウントダウンに参加できないの?」
「はい……時間がなく、申し訳ございません」
「AO2にはサービス開始と同時にログインしていないとダメな感じですか?」
「そうですね。そのようにお願いしたいです。サービス開始の12:00ちょうどから大々的なプロモーションをかける予定でして、そのメインに≪アルミちゃん≫様の初配信の様子を持ってきたいなと」
「なるほど……」
まあそれなら仕方ないのかな。
何にもわからない初心者の新キャラをみんなで眺めようって感じのコンセプトかな?
「あれ? じゃあわたし、もうこのままログアウトできないってことですか?」
「そうなります! ですが、この後の処理はすべてお任せください! 体の管理だけに止まらず、退職の手続き、アパートの退去関連、住民票の移動、その他諸々、充実のトータルサポートをお約束します!」
「トータルサポートって……。わたし引っ越しもしないといけないのね。まあそうか……。5年間住んだボロアパートとこんな形でお別れすることになるとは……」
「ご安心ください! すべてこの≪オーラム≫にお任せいただければ何の問題もございません。その辺りも契約書に記載されております」
ぜんぜん見てなかった……。
きっと詳細な契約書のほうにしか書いてなさそう。
「ご両親やご友人の皆様へのご連絡もサポートいたしますのでご安心ください」
「えっ、ゲーム内のウィジェットから連絡しようと思っていたけど……」
「『
「炎上リスク的な? まあそっか。コンソール類も配信で見えちゃうならそれはしょうがないのかな」
配信者ってけっこう大変なんだ。
VTuberって、見てくれる人の夢を壊しちゃいけないお仕事だもんね。
わたしに務まるかなあ。
なんて今さら考えていてもしかたないし、やるだけやってみよう!
「はい、署名しました! この後はどうしたらいいですか?」
わたしはAO2の≪アルミちゃん≫になります、と!
「ありがとうございます。署名、たしかに確認いたしました。さっそくデータコンバートに入ります。とくにしていただくことはありませんので、イチゴジュースでもお飲みになりながら、時間までお待ちいただければと思います」
「ギルド会議では定番のイチゴジュース! いただきまーす♪」
ギルド会議があるたびに、みんなで床にイチゴジュースをばら撒いて、会議っぽくしていたなあ。
イチゴジュースは初心者用のHPポーション。ちょっとだけHPが回復するアイテムなのだ。つまり常にHPが満タン状態の街(ギルドルーム)では飲むことはできない。だから雰囲気だけね。
んー、待っているだけかあ。少し暇だなあ。
何かしたい……このログハウスから出たら怒られるかな?
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