第10話 長きに渡り、オーラムオンラインをご愛顧いただきありがとうございました

 ただここでぼんやりと「オーラムオンラインのサービス終了を待て」って言われてもなあ。

 どこからどう見ても山小屋。丸太を積んで作られたログハウスだよね。

 わたし、キャンプしに来ているわけじゃないしなあ。

 

 ゆらゆらと揺れる暖炉の火を眺めていると、だんだん眠たく……。

 いやいや、寝ちゃダメでしょ。

 VRMMO内で寝落ちすると自動ログアウトされるからね。

 眠気覚ましに何かしないと!


「あのー、≪オーラム≫さん?」


「データコンバートに入る」と言ったまま、ログハウスの入り口前で微動だにしない≪オーラム≫さんに話しかけてみる。

 まさか寝ているってことはないよね? AIプログラムだし。


「はい。どうかしましたか? 現在コンバート作業は順調に進行しています」


 あ、起きてた。

 まあ、ここにいる≪オーラム≫さんは会話用端末(体)の1つなんだろうな。わたしの体の世話もする、みたいなことを言っていたし、きっと会話用や操作用の端末(体)をいくつも持っているんだと思う。


「それは良かったです。なんて言うかですね……すごく暇で寝ちゃいそうなんで、何かしたいなと。ちょっと外をぶらついてきたりしちゃダメですか?」


 と、視線を≪オーラム≫さんの後ろのドアに向けてみる。


「申し訳ございませんがここから外には出られません。これはドアの形をしたデザインになっていますが、ここを出入りする機能はついていないのです」


「そうなんですか……」


「ここはGM専用ルームでして、専用の転移システムを利用しないと出入りができない仕組みなのです」


「そういえば転送陣を通ってここに来たんでした」


 特別なGMルームかあ。

 何のためにあるんだろう。


「普段はPKerや不正利用者など、ルールに抵触したプレイヤーを一定期間閉じ込めておくための部屋なのです」


「噂の牢獄! ここが⁉」


 問題行動が多いとGMに連れて行かれることがある、とは聞いたことがあるけれど、こんな心落ち着く部屋に監禁されるの? ちょっと意外ね。


「もちろん普段はもっと簡素な部屋ですよ。今は片づけてありますが、拷問器具なんかもありますし。そこのカーペットをめくると、プレイヤーたちが流した血痕が……」


「え、マジ?」


 恐る恐るめくって……みても何もない?


「もちろん冗談です。そんなことはしませんよ。VRMMO内で血は流れませんし」


 くっ、からかわれた。

 でも牢獄っていうのは否定していなさそう。やっぱりそういうのがあるんだ。

 って、あれ? もしかして、わたしって……。


「あの……わたしがもしAO2の契約に応じなかったら……」


 サ終までこのままここに監禁されていた、とか?


「……どうでしょうか? 私のアイドルが悲しむ姿など見たくないですから……今となっては考えたくもないですね」


 うわー、こわっ。

 っていうか、よく考えれば、契約に応じた今もここからは出られないんだけど……。契約してもしなくても、どのみちここから出ることなんてできなかったんじゃ?


 なんかヤバいぞ! 今からでも逃げる? あ……れ? ログアウトボタンがない⁉ いつからログアウトボタンが無効化されて⁉ あー、そうか。もうコンバート作業が進んでいるからなのかな。だけどもしかして、この部屋に入った時点でロックされていたのかも……。今さら騒いでもしかたないだろうけど、ちょっと……かなり不信感が……。でもなあ、尋ねても素直に答えてくれないだろうし、しばらくは様子を窺うしかない、かな。


 別の緊張感で眠気なんて吹き飛んじゃったよ……。


「≪アルミちゃん≫様」


「はひっ! なななななんでしょうか⁉」


 こっそりログアウトしようとしたのがバレた⁉

 け、消される⁉


「無事、コンバート作業が完了いたしました」


「お、お疲れ様です!」


 びっくりした。

 逃げようとしたのがバレたのかと思った……。


「コンソール画面を開いてみてください。操作方法はオーラムオンラインの時と同じです」


 震える手を押さえつつ、右手を操作してコンソール画面を開く。


「……見た目も同じ、ですね」


 慣れ親しんだ画面だ。

 何も変わったところは――。


「あ、レベルが0になってる。JOBもステータスも全部空っぽだ」


 キャラクター名とアバターだけが表示されていて、レベル、JOB、武器・防具などの装備品まですべて空っぽになっていた。


「オーラムオンラインPhase.2にログインした時点で、レベルが1になり、JOBが『配信者ストリーマー』に固定されます。装備品やその他アイテムは、ログイン後にご自身で集めていただくことになります」


「ゲームのチュートリアルとかは?」


「ありません。最初の街『ウルティムス』からのスタートとなります。ログインと同時に各種配信サービスでの配信が開始いたしますので、よろしくお願いいたします」


「よろしくされても……。何をどうすればいいのか」


 チュートリアルなしで初めてのJOBは難しくないですか?


「オーラムオンラインPhase.2にキャラクター死亡の概念はありませんし、自由に行動いただいてよろしいかと。最初はサポートAIに相談しながら、既存のクエストをクリアする様子を配信していただくのが良いと思います」


 サポートAIがついていてくれるんだった。

 それは心強い!


「1つだけ注意点がありました」


「な、何ですか⁉」


「JOBが『配信者ストリーマー』ですから、できるだけ行動を口に出すようにしてください」


「なるほど……。しゃべるのが大事……」


「普段から独り言が多い有海様にはうってつけのJOBと言えますね!」


「うっさいわ! 誰が独り言ばっかりの淋しい三十路女かっ!」


「そうそう、その意気です! 1人ノリツッコミは大事ですよ!」


 ぜんぜん褒められた気がしない……。

 でもがんばろう……。


「そういえば、クエストはAOと同じものがあるんでしたよね。まあそれならいろいろ覚えているし、なんとかなる、かな?」


「レベルが一定以上まで上がると、画面上に接続数などの配信に関わる数値が表示されます。数値の見方などについては、プレイしながらサポートAIにお尋ねください」


「わかりました!」


「それではもう少しでオーラムオンラインPhase.2サービス開始の時刻になります。これから転送作業を開始いたします」


 と、≪オーラム≫さんが言い終わるや否や、わたしの足元に小型の転送陣が展開される。


「あ、もうですか⁉ き、緊張するなあ!」


「普段通りの≪アルミちゃん≫様で大丈夫です。それでは……長きに渡り、オーラムオンラインをご愛顧いただきありがとうございました」


 ≪オーラム≫さんが微笑み、ゆっくりとした動作で頭を下げる。

 釣られてわたしも頭を下げた。


「こ、こちらこそお世話になりました……」


「オーラムオンラインPhase.2の世界をお楽しみください。≪アルミちゃん≫様、いってらっしゃいませ。世界を……ご活躍をお祈り申し上げます」


「い、いってきます!」


 転送陣の光がわたしの頭の上まで達したところで、≪オーラム≫さんの姿は見えなくなった。


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第一章 アルミちゃん、無職になる 編 ~完~



第二章 アルミちゃん、『配信者ストリーマー』になる 編 へ続く


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みなさんこんにちはー。おはようございますかな? それともこんばんは?


ここまでお読みいただきありがとうございました。


≪アルミちゃん≫が無事(?)AO2の世界に旅立ったところで、第一章完結です!

次の話からは、AO2の世界へと場面が移っていきます。

配信者ストリーマー』としての≪アルミちゃん≫はどんな活躍を見せるのでしょうか。

ぜひ、視聴者の1人となって≪アルミちゃん≫を応援してください!


それと……もし良ければ、♡や感想コメントをいただけると大変励みになります。

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それでは引き続き、第二章も軽い気持ちで読んでいただければうれしいです!

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