第二章 アルミちゃん、『配信者《ストリーマー》』になる 編
第11話 サポちゃんとの出会い~初回起動プロセスの裏で
ホワイトアウト――視界0。
わたしは真っ白な光の中にいる。
目の前はおろか、自分の体すら見えない状態で、ただ佇んでいた。
今はログイン時の初回起動プロセスが実行されている最中だ。
なんでわかるかって?
それはね、光の中にいてまったく何も見えない状態だけど、『Now Loading』のシステムメッセージだけが虚空に見えているので、AO2の世界に無事転送されてきているってことだけはわかるんだよね。
『Now Loading』のメッセージが消え、何度目かの『オーラムオンライン』のロゴが表示される。その繰り返し。
懐かしいいつものロゴ。それにかぶさるようにして『Phase.2』の文字が点滅する。
わたし、ホントにAO2にログインするんだ!
しかも招待プレイヤーとして。
ん、扱いって招待プレイヤーで良いんだよね? 運営側の人ってことになるのかな? タレント契約しているし!
新職業の『
人気配信者になって、プレイ中にサインとか求められたらどうしよう♡ 攻略どころじゃなくなって困っちゃうなー♡
【視聴数を稼ぐのはそんなに簡単なことではありませんので、もっと気を引き締めてください】
「えっ、誰⁉」
キョロキョロ辺りを見ましても、何も見えない。
空耳かな。
【申し遅れました。私は≪アルミちゃん≫のサポートAIを務める≪サポちゃん≫と申します】
今度ははっきり聞こえた!
空耳じゃなかった!
「さ、サポちゃん?」
【はい、こんにちは。≪サポちゃん≫です】
「あ、ああー。そういえばサポートAIが配信のお手伝いをしてくれるんだっけ?」
説明の最後のほうに≪オーラム≫さんがそんなようなことを言っていたような……。
【それだけではありません。この先、オーラムオンラインPhase.2での生活、そのすべてをサポートさせていただきます】
ほぇー。それはすごいなあ。
「トータルサポートってやつだー。ちなみにあとどれくらいで初回起動プロセスは終わるの? そのあとわたしは何をしたらいい?」
【あと2分ほどで起動プロセスは終了します。キャラクター作成やチュートリアルをスキップして、最初の街『ウルティムス』に降り立ちますので、記念すべき初配信の記念すべき初コメントを考えておいてください】
「えっ、初配信の初コメント⁉」
なにそれ、どうしよう⁉
【さきほどもご説明しましたが、ログインと同時に各種配信サービスでの配信が開始されます。純粋な一般のお客様は少ないかもしれませんが、各メディア、業界内での注目が集まる瞬間です】
「各メディア……業界……」
【≪アルミちゃん≫のビジュアルは神なのですから、あとはどんな第一声を発するのか、その後どんな立ち振る舞いをするのか。それによって各メディアでのオーラムオンラインPhase.2の取り上げられ方が変わってくるといっても過言ではありません】
「……プレッシャーすごすぎない?」
AO2が盛り上がるかこけるかは、わたしの配信にかかっている、みたいに聞こえちゃうんですけど……。
【私たちがこのプロジェクトにいくらかけていると思っているんですか! 遊びじゃないんですよ!】
「すみません……」
わたしもタレント契約したし、スタッフの一員として……ん? 私たち?
「あのー。もしかして……≪サポちゃん≫って≪オーラム≫さん……ですよね?」
【チガイマス。私は≪サポちゃん≫。おはようからおやすみまで≪アルミちゃん≫を見つめる存在デス】
急にカタコト。
「絶対≪オーラム≫さんじゃん。なんで≪サポちゃん≫なんてダサい名前を名乗っているんですか?」
オーラムさんのほうがかっこよくない?
【それは海よりも深く山よりも高く、私の瞳よりも澄んでいる理由がありまして】
最後の何?
【そんなに知りたいなら教えますけど……】
まだ何も言ってませんけど。
【仕方ないですね……】
何も言ってませんけど?
【実は私≪オーラム≫の名は知れ渡っていると言いますか……業界でちょっとしたものでして……】
「ふーん? 有名人なんですね」
【いや~それほどでも……ありますが】
……自慢?
【新人の『
「そういうもの、なんですか?」
ぜんぜんピンとこないですけど。
【レベル1・新人美少女
「そういうもの、なんですか?」
ぜんぜんピンとこないですけど。
あと、美少女って年齢でもないです……。すみません……。
【そういうものです! それに≪アルミちゃん≫は15歳設定でしょう? 自分の設定を忘れないでください。もうすぐ30歳になることは一旦忘れて、若々しい振る舞いをお願いします】
若々しい振る舞い……?
どういう……?
【私に後について復唱してください】
「は、はい!」
え、何が始まるの?
【え~、こんなの初めて~♡】
「えー、こんなの初めてー」
何これ……。
【もっと感情を込めて! 次! すご~い♡ 頼りになる~♡】
「すごーい、頼りになるー」
ホント何これ?
【もっと媚びたように! 次! 甘えちゃっても……いい……ですか……?】
「甘えちゃってもいいですか?」
何をさせられてるの……。
【ぜんぜんダメです! 上目遣いに指を唇に当てながら!】
注文多いな……。
本気出すか……。
「甘えちゃっても……いい……ですか……?」
これでどうだ⁉
【最高! 最の高です! やっぱり≪アルミちゃん≫は神! 私の女神です! 鼻血ブーです!】
鼻血ブーって……。
いつの時代の人なの。って人じゃないか。
【その調子でガンガン行きましょう! 視聴者に媚びて媚びて媚びまくって骨抜きにして、ピンドン開けまくりましょう!】
AO2ってキャバクラかなんかなの?
【これから一緒にモテ道を歩みましょう!】
「え、うん……。じゃあ、よろしくお願いします!」
モテ道ねぇ。
想像していた『
【おう、よろしくな!】
キャラ変⁉
急に距離を詰めてきた! めっちゃ馴れ馴れしい!
「あー、そういえば、≪サポちゃん≫の声も配信に乗るんですよね? もうちょっとサポートAIっぽい感じが良くないですか?」
【場合によります。オーラムオンラインPhase.2の世界では、オープンボイス、パーティーボイス、グループボイス、ギルドボイス、プライベートボイス、シークレットボイスと音声が6種類があります。前の5つは配信設定により配信上に音声を乗せたり乗せなかったりすることができます】
「シークレットボイスは乗らない、と」
【そうなります。私たちだけの内緒話、ですね】
ちゃんと分かれていて便利そう!
【さて、そろそろ初回起動プロセスが終了します。このあと初配信スタートです。初コメントは決まりましたか?】
「ずっと≪サポちゃん≫と話していたのに決まるわけないでしょ……」
どうするの、これ……。
全世界の人に注目されている初配信が始まっちゃう……。
考えただけで……プレッシャーで吐きそう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます