第39話 わたしは人間をやめるぞー!

「≪アルミちゃん≫! 少し……いや、かなりゼリンの数が多くないか⁉」


 ≪レーモンド≫さんの怯えるような声。


 えっ? そんなに? またまた大げさなー。100匹くらいでは多いとは言わないですよ?


 立ち上がって辺りの様子を伺――って、なんじゃこりゃーーー⁉


「ヤバーい! ゼリン大暴走スタンピードだぁぁぁぁぁぁぁ!」


 100匹どころの騒ぎじゃない!

 こんなにどこにいたの? ってくらい、辺り一帯を埋め尽くすほど、ゼリンが大量発生している! しかも一斉にこっちに向かって飛び跳ねてきている⁉


「ヤバいです!≪ガーノルド≫さん、草を燃やすの中止! 一旦避難しますよ!」


 砦は放棄!

 最終防衛ラインまで撤退!

 具体的には≪サンドラ≫さんの自宅まで逃げます!


 え、これ……ゼリンの突進で家が破壊されたりしないよね……?


【≪アルミちゃん≫良いですよ! とても良い絵です! 視聴者はこういう刺激的な絵を求めているんですよ。さあ、今です。ゼリンたちに襲われてください】


 無茶言うな!

 こっちから攻撃しなければ、ゼリンからは何もしてこないとはいってもさー、こんな大量の突進を受けたら、「痛いね」くらいじゃすまないでしょ!


癒草ヒーリング・グラスもありますし、平気じゃないですか?】


 適当過ぎる!

 絶対ダメでしょ!

 癒草ヒーリング・グラスは生でかじっても、ぜんぜん回復しないからね?


【せっかく同時接続数が増えてきているのにもったいないですよ!】


 それを言われると……。

 今何人?


【同時接続数1500を突破しました】


 おお! けっこう増えているね。

 視聴者はやっぱりこういう映像が好きなのかあ。


【あとは≪アルミちゃん≫がゼリンに襲われて、ヌルヌルになって服が溶ければ、≪ニャンニャンティア≫さん登場時の瞬間最大接続数を超えられるかもしれませんよ?】


 あれは驚異の数値だったね……。

 ってちがーう。

 ゼリンに襲われてもヌルヌルにはならないし、怪しい液体で服を溶かしたりもしないからね? わかっていて言っているのか、本気で言っているのか……。

 それにエロはダメって言ってたじゃん!

 

【もののたとえですよ。それくらいのガッツと根性を見せないと、視聴者は納得しません、ということです】


 そのたとえ、わかりにくいわ……。

 んじゃまあ、とりあえずノーエロで過激な絵に挑戦してみますか……。

 女は度胸!


「1番≪アルミちゃん≫、いっきまーす! 題して、『ゼリンプール・女子100m背泳ぎ』!」


 思い切ってゼリンの群れの上にダーイブ!

 背泳ぎするから上から撮って――うわっ、ダメだこれ!


「ヤバいヤバいヤバい! めっちゃ跳ねる! ぜんぜん泳げない! おわっ、アヒャヒャヒャヒャッ! くすぐったいって! ちょっ、お尻! アハハハハハハハハッ!」


 ランダムに飛び跳ねるゼリンたちの頭の上を、まるでピンボールのようにあっちこっちに飛ばされまくるわたし。

 もう予測不可能な弾かれ方で……めっちゃ楽しい!


「お……おお……≪アルミちゃん≫……その……大丈夫かね?」


「今助けにいきます!」


 ≪レーモンド≫さんと≪ガーノルド≫さんが身構えているのが見える。


「大丈夫でーす。めっちゃ楽しいー! このアトラクション絶対流行るよー! アハハハハハハハハハ!」


 ダメージとかないし、襲われているわけじゃないので平気でーす!


「2人も一緒にどうですかー? ゼリン研究の成果がこれですよー! そこはらめぇぇぇぇぇ! アヒャヒャヒャヒャッ!」


 制御不能なゼリンピンボールを楽しみながら、2人を誘ってみる。


「いや……遠慮しておこう……。ぎっくり腰になると仕事に支障をきたす……。≪ガーノルド≫、こういうものは若者の特権だろう?」


 自身の腰を擦りながら、≪レーモンド≫さんがニヤリと笑う。

 よーし、≪ガーノルド≫さん、一緒に泳ぎましょう!


「私ももう少しで子どもが生まれる身。ここでケガをするわけには……」


 こっちも及び腰⁉

 守るものができると強くなるって言うのはウソだったのかーい!


「良いですよーだ。生涯独身、彼氏いない歴=年齢の≪アルミちゃん≫がゼリンプールは1人占めしますからねー。べーーーー」


 しあわせなヤツはそこで指を咥えて見てろってね!

 誰かー、このアトラクションを一緒に楽しんでくれる人ー! わたしとお付き合いしてくださいよー!


【≪アルミちゃん≫、生配信で彼氏募集はちょっと……。出逢い目的と取られてペナルティを食らう配信サービスもあるかもしれませんので】


 くそぉぉぉぉぉ!

 配信サービスまでわたしの邪魔をするのかー!

 もう人間なんて当てにしないっ!

 わたしは人間をやめるぞー!

 これからはゼリンたちと楽しく暮らしていくもんねっ!

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