第38話 ゼリンたちはどうやって、大好きな癒草《ヒーリング・グラス》を見つけているのでしょうか⁉

「はーい、じゃあこれからゼリン大量召喚をしたいと思いまーす」


 みんなでせっせと束ねた癒草ヒーリング・グラスたち。それを等間隔に並べていく。わたしを中心に円を描くように。先端が外側に向いて食べやすいようにしておきましょう。


「さて、並べ終わりましたね。キレイに円になりました」


 準備はOKかな。


「まだ草の束がかなり余っているようだが?」


 ≪レーモンド≫さんの指摘はごもっとも。

 円の中心に立つわたしの足元には、まだどっさりと草の束が転がっている。


「はい、良いところに気づきましたね! 答えを言う前におさらいです。まずは≪レーモンド≫さん!」


 ズバッと名指しをして指をさす。


【≪アルミちゃん≫、人のことを指さしてはいけませんよ】


 ゲームの中でもダメなの?

 かっこいいポーズなのに……。


「ゼリンが好んで食べるものは何でしたか?」


癒草ヒーリング・グラスだな。先端部分の白いところを好む。だからこうして束にして食べやすくしている」


「ピンポンピンポンピンポーン! 大正解! あ、今の正解で、きっと視聴者数が増えましたよ!」


【増えませんでしたね。同時接続数180です】


 むぅ。

 ≪レーモンド≫さんは数字を持っていない。イケオジ好きは消滅したのかな?


「では次、≪ガーノルド≫さん! どうですか? ゼリンたちはこの癒草ヒーリング・グラスの束を求めて集まってきていますか?」


 見たまんまではあるけれども。


「少しはこっちに来ているかもしれない……ですね」


 何匹かは目ざとく束を見つけて、先端の部分をハムハムしているね。

 ≪サポちゃん≫アップで撮っておいてね。きっとこのかわいいゼリンの姿で視聴者が増えるはず!


【同時接続数182です】


 ゼリンファン2名ゲットだぜ☆


「まあ、効果はなくはないって感じですね。近くにいた子たちは気づいてやってきているかも?」


「しかし、この庭にはもっとたくさんのゼリンがいる。あまり集まってきているようには見えないが?」


「そうですねー。まだ近くにいる子だけって感じです。さて、ここで問題です!」


 いよいよ核心に迫る!

 視聴者の人、実験直前にはもうちょっとだけ増えてほしいなー。

 

「ゼリンたちはどうやって、大好きな癒草ヒーリング・グラスを見つけているのでしょうか⁉ はい、≪ガーノルド≫さん!」


 これがわかったらもう答えは出たようなものです!

 がんばって!


「え、そうですね……。色ですか?」


「色? どうしてそう思ったんですか?」


癒草ヒーリング・グラスは先端が白いから、それを見て食べている、のではないかと」


 とても自信がなさそう。

 残念ながら不正解でーす。


「たしかにね、わたしたちが選り分けた時には目で見て判断しましたね。でもそれは、こうやって離れて、上から庭全体を見渡せるからなんですよ。ゼリンってそういうことできると思いますか?」


「大きくても30cmくらいの球体だから、難しいかもしれません……」


「そうですねー。ジャンプしても1mくらいでしょう。それに地面にいる時は、大抵草のほうが背が高いですからね」


 ゼリンたちが草むらに入った時には、ホント目の前しか見えていないと思います。


「ではどうやって探しているのだね?」


 しびれを切らした≪レーモンド≫さんに、逆に質問されちゃった。

 では正解発表といきましょう。


「ニオイ、ですよ」


「ニオイ?」


「ゼリンはね、嗅覚が発達していると言われています」


「そう、なのか……。丸いし、ゼリー状でどこに鼻があるのかわからんな……」


 ≪レーモンド≫さんは、近くで跳ねるゼリンを観察しながら呟いた。


「人のようにわかりやすく見える形で鼻はないですよ。ゼリンは全身がその役割を果たしているんです」


「なるほど、そういうことか……」


「全身が鼻、なんですね……」


 2人が感心したようにゼリンたちを見つめている。


「じゃあ答えがわかったところで、ゼリンたちを呼び寄せてみましょうか!」


 さあ、いよいよクライマックスですよ!

 ≪レーモンド≫さんたちが腰を抜かすところを生配信でお届けしましょう!


「どうやってだね?」


「ゼリンたちはニオイで癒草ヒーリング・グラスを探します。癒草ヒーリング・グラスから発せられるわずかなニオイ。それを増幅させてやれば良いんですよ」


「増幅?」


「はい、増幅です! さあ、≪ガーノルド≫さん、こちらへ」


 本日の主役は≪ガーノルド≫さんです!

 はいみんな拍手ー! パチパチパチパチ!

 ぜひ円の中心に入ってきてください!


「さっき契約書に印章を押しつけた時と同じように、イグニッションをお願いします。この癒草ヒーリング・グラスの束に向かってね」


 イグニッション。

 初級火魔法の1つ。

 いろいろな火魔法の前提スキルになる発火魔法だ。


「この草の先端に火がつくくらいの威力でお願いしますね」


 ≪ガーノルド≫さんは小さく頷き、癒草ヒーリング・グラスの束の前で膝をつく。


「わかりました。……イグニッション」


 たちまち、チリチリと草が焦げるようなニオイが鼻腔をくすぐる。

 良い匂いだー。人間でもわかるくらい強い匂いが発生しましたね。狙い通り!

 

 わたしもしゃがんで、もっと癒草ヒーリング・グラスの香りを堪能しましょう♪


「あ、 生の草なので、けっこう強めに燃やしてもらって大丈夫ですよ」


 その言葉に反応し、さらに強い熱が癒草ヒーリング・グラスを炙り出す。


「あー、だいぶ香ってきましたね。これが癒草ヒーリング・グラスを燃やした時のニオイです」


 これだけ強い香りが出ればもうそろそろ――。

 AOとAO2でゼリンの習性に違いがなければね……。


「≪ガーノルド≫さん、続けてください。ほかの束にも火をつけてー。さあ、≪レーモンド≫さん、ゼリンたちの状況はどうですかー?」


 愛しのゼリンちゃんたちは集まってきているかな?


「き、きた……。大量のゼリンが押し寄せてきたぞ……」


 やったね!

 これで成功報酬の10万[SEED]もゲットだ♡


「しかし≪アルミちゃん≫……」


「んー、なんですか? ばっちりわたしの言った通りでしたよね?」


 今さらごねてもダメですよ?

 契約書もありますし、生配信していますから証拠はバッチリ――。


「≪アルミちゃん≫! 少し……いや、かなりゼリンの数が多くないか⁉」


 ≪レーモンド≫さんの怯えるような声。


 えっ? そんなに? またまた大げさなー。100匹くらいでは多いとは言わないですよ?


 立ち上がって辺りの様子を伺――って、なんじゃこりゃーーー⁉

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