第37話 お城から生配信したいなーなんてね

「じゃあ前置きはこの辺りにして、ゼリンたちを呼び寄せようと思います。ちょっと手伝ってもらっても良いですか?」


 最初に考えていたよりももっと効率の良い方法が試せそうだし、2人が草むしりを手伝ってくれてラッキー♪


 さっそく大量のゼリンを呼び寄せちゃおうかな!


「まずは癒草ヒーリング・グラスから行こうと思います。効率よくゼリンたちを集めるためには、まず草の向きを揃えてください」


「草の向きとはなんだね?」


 ≪レーモンド≫さんが、癒草ヒーリング・グラスがたくさんつっこまれているバケツを前にして首をひねる。


「さっきもチラッと言いましたけど、ゼリンたちが食べるのは癒草ヒーリング・グラスの先端部分の白くなっているところだけなんですよ。なので先端が揃うようにまとめたいんです」


 こんなふうに手首くらいの太さの束を作っていきたいんですよ。

 この紐で縛ってね。


「なるほど理解した。早速取り掛かろう」


 ≪レーモンド≫さんも≪ガーノルド≫さんもバケツの前にしゃがみ込んで癒草ヒーリング・グラスの束を作り始める。

 わたしも草の束を作りつつ、できあがっている束に、雑草が混じっていないか念のためチェック。まあね、雑草は少しくらい混じっていても大したことはないけれど、毒草ポイズン・グラスのほうが混じっているとちょっと困る。まずはゼリンのほうだけ集めたいからね。そのほうがゼリンの習性を操っている感じが出るでしょ?


「お2人とも仕事がていねいですね。すごくきれいに先端が揃っているし、癒草ヒーリング・グラスだけがしっかりと選り分けられていて助かる……」


 さすが執事さん、なのかな。

 きっちりした性格の人たちなんだなということがよくわかる。


「普段は城の中での細かい作業も多いのだよ。破れた布を補修したり、庭の手入れをしたりな」


「お2人とも執事さんですよね? そういうお仕事もあるんですか?」


 ちょっと意外だ。

「旦那様、いってらっしゃいませ」って並んでお見送りしたり、執務中にお茶を入れたりする仕事かと思っていたのに。


「地味も地味ですよ。貴族同様の振る舞いが求められるし、私はこういう外仕事のほうが気が楽ですね」


 と、≪ガーノルド≫さんが冗談交じりに笑う。


「そういえば、≪レーモンド≫さんは執事長でしたよね?」


「そうだ。私は幼少期からお世話になっているし、先代の頃からお仕えしているので、礼儀作法についてはもう慣れてしまったよ」


「先代の頃からですかー。ずいぶん長年お勤めなんですね」


「見習いの期間も含めると、もう50年にはなるか……」


 遠い目。

 

 あれ? でもAO2って2年前からの稼働って話じゃなかったっけ。

 2年と50年では差があり過ぎる……。

 ≪サポちゃん≫? その辺りどうなっているの?


【オーラムオンラインPhase.2で管理しているキャラクターたちの稼働は約2年です】


 管理しているキャラクター?

 つまり管理していないキャラクターもいるって意味だったりする?


【肯定します】


 えっ……と、つまりどういうこと?

 AO2で管理していないキャラクターって何?


【≪アルミちゃん≫はオーラムオンラインPhase.2を利用して接続をしていますが、そうではないプレイヤーも存在するということです】


 そうではないプレイヤーって?


【これ以上の情報は現在の≪アルミちゃん≫に開示することはできません。これはプライベートボイスです】


 わかりやすく何かを隠している……ね。

 現在の、ってことは、そのうち教えてもらえるって思っていても良いのかな?


【シークレットな達成条件を満たした際に情報が開示されることになっています】


 シークレットな達成条件……。

 気になるけれど、訊いても教えてもらえないよね。

 わかった。

 ちゃんとその時に話を聴かせてもらうね。


【プレイヤーに関する情報がなくても、ここでの暮らしに不利益はありません。NPCは存在しないので、すべてのプレイヤーと同じように接すれば問題ありません】


 うーん。まあ言っていることはわかる。

 この話から導き出される答えは……≪レーモンド≫さんが50年働いているというのは、おそらく真実。それは薄っぺらいキャラクター設定なんかじゃなさそうってこと。


「≪レーモンド≫さんがどんなお仕事をされているのか興味が湧いてきちゃいました! 今度お城に遊びにいかせてほしいです!」


「旦那様の許可が下りれば問題ない」


「わーい! お城訪問したいなー。お城の様子を配信したいなーなんてね。あ、わたしね、ユニークJOBの『配信者ストリーマー』っていうのをやっていまして、今もこの様子が生配信されているんですよ。世界中の人が見てくれているってことです」


 生配信なんて言われてもわからないかな?

 

「そういうJOBが生まれたことは通達が来たから知っている。なるほど、≪アルミちゃん≫がその『配信者ストリーマー』というわけか」


 ≪レーモンド≫さんが感心したようにわたしのことを見つめてくる。


「私も『配信者ストリーマー』というJOBには興味がありました。その目で見たものを、別のところにいる人も同時に見ることができるんですよね。すごく便利そうだ。どういう仕組みなんですか?」


 ≪ガーノルド≫さんが思いのほか前のめりに食いついてきた。まるで珍獣でも見るかのように目を輝かせている。


「わたしの目で見たものを配信しているってわけじゃないですけどね。上にいる≪サポちゃん≫がカメラマンですから、どんな映像を流しているかは≪サポちゃん≫しか知らないんですよー」


 ユニークJOB『配信者ストリーマー』がこの世界に誕生したことは、通達とやらでみんなが知っている、と。


 でも通達って何だろ?

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