第36話 意図的に盛り上がりの波を作っていきましょう!

 わたし、≪レーモンド≫さん、≪ガーノルド≫さんの3人で草むしり。

 無言の時間が続く。


 ≪サポちゃん≫は、配信を盛り上げてくれるわけでもなく、ただわたしの頭の上辺りを優雅に歩いて空中散歩中だ。何かちょっとくらいは手伝ってくれても良いのにね。


【私の手では草むしりはできませんから】


 だったらしゃべりで配信のほうを盛り上げてくれない?


【私はサポートAIです。あくまで≪アルミちゃん≫が主体の配信です。≪アルミちゃん≫が盛り上げているところをお手伝いすることしかできません】


 融通が利かないなあ。

 まだ1時間くらいは草をむしらないと次の展開に進めないよ。

 同接、下がってきていない?


【今は……20ですね】


 もうほぼ0ってことじゃん。

 この配信やる意味ある?


【意味と言われましても。24時間配信ですから。それに今は「作業配信」ということでタグをつけていますし、次の展開があるのは「1時間後」と表示もしています。絵に変化があった時には、フォローしている視聴者に対して自動通知がされますから、今の接続数は気にしなくて大丈夫です】


 こういう地味な絵の時には人が減るのは仕方ないってこと?


【そうです。常に視聴者を集め続けるのは難しいので、意図的に波を作って盛り上がりどころがあればそれで問題ないです。盛り上がったところを切り抜いて宣伝に使えば、生配信とは別の形で収入を得ることもできます】


 いろいろ考えてくれているのはわかったよ。

 配信のことは≪サポちゃん≫にお任せだし、わたしは全力で盛り上がりどころを作れるように立ち回るってことね。


【そういうことです。脱がずにお願いします】


 わかってます!

 ノーエロで盛り上がる……。がんばろう。



* * *


 それからだいたい1時間後。


「そろそろこの辺りもきれいになったので、一度草むしりを中断しましょうか」


 立ち上がって腰を伸ばす。

 あー、腰が固まってバキバキ音が鳴るー。


「そうか。ずいぶん集中してやってしまったな」


「お疲れ様です。きれいになりましたね」


 ≪レーモンド≫さんと≪ガーノルド≫さんも、わたしに習って腰を伸ばしている。


「3つのバケツに草がいっぱいになったが、この後はどうするのかね?」


 正確に言えば、すでに大きなバケツから溢れるくらいの量の草が刈り取られている。

 まあ、これだけ集めたら、この庭だけじゃなくて、≪サンドラ≫さんの家の周辺まで効果は出せるかな。


「この草を使って、ゼリンたちを呼び寄せます」


「ほぅ。それが本当なら旦那様の研究に大きな影響を与えることになるな」


 あ、軍手で髭を!

 あーあ、顔が泥だらけに……。でも≪レーモンド≫さんは気づいていない。まあいっか。


「ゼリンたちを呼び寄せる方法とはどんなものなのか教えていただけますか?」


 ≪ガーノルド≫さんが、3つのバケツをわたしの近くまで運んできてくれる。


「はーい。そろそろ種明かしをしますね。お気づきかもしれませんが、ゼリンは草食です。ゼリンたちがこの辺りの草原に多く出現しているのは、エサとなる草がたくさん生えているからなんですよ」


「それは知っている。旦那様の研究によると、『ゼリンはゼリー状の肌に接触する草を溶かして体内に取り込むことで活動している』となっているな」


「だいたい合っていますね。でも、肌に接触するすべての草を溶かして食べているわけじゃないんですよ」


 はい、ここ重要なポイントです。

 次の定期試験の出題範囲ですからね。


「ゼリンにも好みの草があるんですよ」


「なんと……そうなのか……」


「もちろん飢餓状態になったらどんな草でも食べると思いますけど、これだけたくさんの草が生えている地域だと、基本的には好みの草しか食べません。好みの草を探してウロウロしているので、あちこち好き勝手に飛び回っているように見えるんですよ」


 ゼリンは無害なモンスターだ。

 草食だし、常に草を探してうろついているだけだし、こちらから攻撃しない限りは何もしてこない。草を食べ、分裂して増えていく。時には脱皮して、古いゼリー部分を脱ぎ捨てることもある。それは土に還って土壌を良くしてくれる。


「好みの草か……。この選り分けた癒草ヒーリング・グラス毒草ポイズン・グラスか」


 ≪レーモンド≫さんがバケツを見つめていた。


「そうでーす。お察しの通りです。ゼリンは基本1種族なので癒草ヒーリング・グラスを好んで食べます。でもたまに毒草ポイズン・グラスを好む変わり者の個体もいて、そいつらがポイズンゼリンに変化していくんですよ」


「ゼリンたちの観察をしていても、そのことに気づけませんでした……」


「≪ガーノルド≫さん、見ているだけで気づくのは無理ですよ。ゼリンたちが草を溶かして食べる速度はものすごくゆっくりですし、そもそも先端の部分しか食べませんから目視でわかるわけないんです」


「でもお嬢さんはそれを知っている……」


「ま、ちょっと伝手がありましてー」


 AOの知識とは言えないから、出展元はごまかすしかないかな。


「情報提供者のことは尋ねないことにする。それはマナー違反だからな。我々は結果が得られればそれで良い」


「はい、助かりまーす。じゃあ前置きはこの辺りにして、ゼリンたちを呼び寄せようと思います。ちょっと手伝ってもらっても良いですか?」


 最初に考えていたよりももっと効率の良い方法が試せそうだし、2人がいてくれてラッキー♪


 さっそく大量のゼリンを呼び寄せちゃおうかな!

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