第35話 恋愛的な展開ですか? それも視聴者が喜びそうですね

「軍手は嵌めましたかー? 長靴は履きましたかー?」


 革靴だと、たまにぬかるんでいたりしたら、ぐちゃぐちゃになっちゃいますからね……。


「我々は大丈夫だよ。さっそく案内してくれないか」


 ≪レーモンド≫さん……軍手をしているからなのか、カイゼル髭がうまく触れていなくてちょっとかわいい。あ、でも、この後草と土を触った手で髭を触るのは、顔が汚れるからやめたほうが良いですよ?


「ゼリンが集まっている庭はこっちです」


 ≪サンドラ≫さんの家の裏手に広がる庭のほうへと2人を案内する。

 裏手の庭は見晴らしが良い丘みたいになっていて、一応敷地を区切る柵みたいなものはあるんだけど、小さなゼリンたちの侵入を防ぐような役割にはなっていない。


「これは……聞いていたよりもずいぶん集まっているな……」


「わりと多いですねー。今はざっと50匹……もしかして100匹くらいいるかも?」


 庭の広さは……50㎡くらい? わかんない、目測だからもっと広いかも。んーでもめちゃくちゃすごく広いってわけではないくらい? 小高い丘全体が庭になっていて、一応柵らしきものでここまでが敷地だよーって仕切りはしてある感じ。

 でもモンスターにはそんなの関係ないよね。今も坂道を登ってゼリン、ポイズンゼリンたちがいっぱい庭の中に入ってきている状態なわけ。まあ、ゼリンたちはずっと庭に集まっているわけじゃなくて、しばらくすると草原のほうに帰って行くんだけどね。入れ代わり立ち代わりやってきているから、いっぱいいるように見えるのかな。


「さて、我々はどうすればいい?」


 ≪レーモンド≫さんがバケツを片手に尋ねてくる。


「はいはい、説明しますね。って言っても、やることは普通に草むしりなんですけどね。ここに生えている草は大きく分けて3種類あります。パッと見て、見分けがつきますか?」


 これが見分けられないと、説明に手間がかかるかもしれない。

 

「3種類か……。これと、これは違う草だな。ほかは……」


 そう言って、≪レーモンド≫さんが引き抜いた草は、癒草ヒーリング・グラス毒草ポイズン・グラスだった。


「おー、すごい。その2種類が分かれば大丈夫ですね」


 今回必要なのはその2つの草ですから。


「先が尖っていて白っぽくなっているのが癒草ヒーリング・グラスです。逆に黒っぽくなっているのが毒草ポイズン・グラスです。どっちもたくさん集めて調合するとポーションを作ることができますよ」


「ほぅ、これがポーションの材料なのか。こんなに簡単に手に入るものなんだな」


 2本の草を掲げて光に当てながら、感心したように頷いていた。


「んー、普通はこんなに固まって生えることはないはずなんですけどねー。もしかしたら、誰かが栽培していたのかも? でも今はこの庭は手入れされていないみたいだし、≪サンドラ≫さんのおじいさんが育てていたのかなー? あ、そちらの方はどうですか? 草の違い、判りました?」


「私は≪ガーノルド≫と言います。よろしくお嬢さん」


「≪ガーノルド≫さんですね! わたしは≪アルミちゃん≫です! よろしくお願いします!」


 ≪レーモンド≫さんの相方さんは≪ガーノルド≫さんって言うのね。

 ≪レーモンド≫さんよりもだいぶ若い。

 たぶん見習いの執事さんなんでしょうけど、年にわりに雰囲気が渋い……。執事だから? 渋イケメンに「お嬢さん」とか言われるとちょっとドキドキする……。


【この後は恋愛的な展開ですか? それも視聴者が喜びそうですね】


 そんなんじゃないよ⁉

 会ったばかりでそんな急な……。


【気になるなら、もっと話しかけてみれば良いじゃないですか】


 え……無理……。


【なぜです? 草むしりの間はどうせ暇ですし、絵も地味になりますから、そういう展開も良いと思いますよ】


 さすがに心の準備が……。


【そうですかぁ。良い物件だと思うんですけどね】


 物件って。


【≪ガーノルド=ストラルドマン≫24歳。妻の名前は≪ハノン≫。現在第1子を妊娠中】


 ぜんぜんダメじゃん。

 まったく良い物件じゃない……。

 順風満帆な既婚者を恋愛対象として勧めてくるのはやめてくれない?


【奥さんが妊娠中は逆にチャンスらしいですよ】


 そういう生々しいのはマジでやめて……。

 わたし、もっとちゃんとした普通の恋がしたいの……。


【そういうことを夢ばかり見ているから、年齢=彼氏いない歴になるんですよ。なりふり構わず行きなさい!】


 わ……かってる……けど……。でも……。


「≪アルミちゃん≫? 聞いているかね?」


「あ、はい! ちょっと考え事を! もう一度お願いできますか⁉」


 ヤバいヤバい。

 草の説明中だった!


癒草ヒーリング・グラス毒草ポイズン・グラスはわかった。もう1種類はどうすればいいのかね?」


「あー、それはですね。その2つ以外の草ってことでその他扱いです。雑草として捨ててしまうので、ほかは全部こっちのバケツにまとめて入れちゃってください!」


「なるほど、わかった。≪ガーノルド≫も良いかね?」


「はい、理解しました。ここら一帯の草を選別していけばよろしいので?」


「そうです! 庭全体の草を全部抜き終わるまでやりたいですけど、なぜゼリンたちが集まってくるかの説明は、そこまでやらなくてもできるので、3人で集まって……この辺りが良いですね。ここを集中的にやっちゃいましょう。そうしたら説明しますね」


 パッと見て、癒草ヒーリング・グラスが密集した辺りを指し示す。

 まあ、たぶんだけど、3種類のバケツに草が溢れるほど入った辺りで、≪レーモンド≫さんにも≪ガーノルド≫さんにも何が起きているかはわかってくると思う。


 ゼリンたちがAOと同じ習性ならね!


 それだけが不安です!

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