第3話 GM≪オーラム≫さんとの初対面

 ゲームの世界に永住ねー。

 そんな夢みたいな話があったら……。


 お、次のメールが来た。



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オーラムオンラインPhase.2の世界に永住していただくことに同意された場合、法的な手続き等の一切は我々に委任することと同義です。


ご存じの通り、オーラムオンラインのプレイヤーには死の概念は存在しないため、ご懸念されているようなゲーム内で死ぬと現実でも死ぬのではないか、といった事態は起こりえませんのでご安心ください。


ここから先はメールではなく、直接の対話によってご説明させていただきたいと思います。

最終的なご決定の意思は、その時にお伺いいたしますので、現時点ではご判断いただかなくてもけっこうです。


この先の話をお聞きになりたい場合は「はい」を、不要な場合は「いいえ」をタップしてください。

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 いや……うーん。本気で言っている?

 永住とか、法的な手続きとか。

 たしかにね、AOはキャラが倒れても、気絶状態で『リザレクション』を待つか、時間切れで街に戻るかだから、死ぬってことはないけど……。

 だからってゲームの中に永住……。

 永住っていうことは永住するってことだよね。

 つまりそれはずっとフルダイブ状態ってことで……? わたしの体とかどうなっちゃうの? 意識だけの存在になって死ぬ? それをするのに法的な手続きが必要ってこと?


 情報が少なすぎて何とも言えないなあ。

 まだこの話を受けるって決めていなくてもGMの人と話をしてもいいんだよね。それだったらもうちょっと話を聞いてみようかな……。

 いや、でもやっぱりヤバさ満点だし、やめておこうかな。


「いいえ」と。


 ふぅ、これでいいや。

 じゃああとはAO最期の時をしんみりしながら過ごすとしますか。


 ん、またメール?



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決して損はさせませんので、お話だけでも聞いていただけませんか?


この先の話をお聞きになりたい場合は「はい」を、不要な場合は「いいえ」をタップしてください。

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 追撃のメールがきた……。「いいえ」と。



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ちょっとだけでもお願いできませんか?


この先の話をお聞きになりたい場合は「はい」を、不要な場合は「いいえ」をタップしてください。

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 しつこいなあ。

 怪しいしゲームの世界に永住は嫌ですって。「いいえ」!



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≪アルミちゃん≫様に、耳寄りな情報があります。

オーラムオンラインPhase.2の話とは関係なく、少しだけ会いませんか?


この先の話をお聞きになりたい場合は「はい」をタップしてください。

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 ちょっと!「いいえ」の選択肢消えてるじゃん⁉


 もう……。

 どうするのこれ。

 メール画面も閉じられないし……。


 しょうがないにゃあ。

 まあ、一応AOのGMの署名で送られてきている? 本気でヤバそうだったら断ればいいし……とりあえず「はい」!



 んー、今度は追撃のメール……来ないね。

 このまま待っていればいいのかな?


 うわっ、転送陣⁉

 

 突然、わたしの足元に、小型の転送陣が展開される。

 街中では使用できないスキル……たぶんタイミング的にもGMの人かな。抵抗せずに待つか……。


 コンマ数秒後、転送陣の下から光があふれ、わたしの身体を包む。

 目の前が真っ白になったと思った瞬間――。


「……ログハウス?」


 わたしはログハウス風の部屋に転移していた。


 丸太を並べた壁。

 火の入っていない暖炉。

 木のテーブル。

 ふっかふかのソファ。


「≪アルミちゃん≫様、ようこそいらっしゃいました」


 後ろから声をかけられて、慌てて振り返る。


「≪アルミちゃん≫様、お帰りをお待ちしておりました」


 深々と頭を下げる……天使?


「あ、ども……」


 釣られてぺこりと頭を下げてみる。

 天使、だよね……。

 こんなアバター見たことない。

 頭に天使の輪っかこそついていないけれど、背中から立派な白い羽根が生えている。この服はキトンって言うんだっけ? ギリシャ神話の神様が着ているような。なんか全身ちょっと光っているし神々しい……。


「オーラムオンラインPhase.2に興味を持っていただきありがとうございます。GMの≪オーラム≫と申します。お初にお目にかかります」


 笑顔がまぶしいっ!

 待って……かわいい……。

 ギリわたしの≪アルミちゃん≫よりも……。声もかわいい……ちょっと悔しい!


「≪アルミちゃん≫様におかれましては、βテストよりご協力いただき、いつも斬新なプレイスタイルで我々も楽しませていただいておりました」


「えっと……それはども、です……」


 斬新なプレイスタイルって何だろ。

 わたし、普通に攻略していただけなのに?


「オーラムオンラインでは、あえて職業ごとに経験値獲得効率に差をつけておりまして、≪アルミちゃん≫様の選択されたプリースト、ハイプリーストは経験値効率最下位でしたので、高ランクの攻撃職との公平狩り以外ではまともなレベル上げはできなかったはずなのですが……」


「あーそれね。経験値なんて効率が悪いなら、ほかの人の2倍、3倍の時間をかければ良いだけですからね。ニートを舐めないでくださいよ!」


 人が多いコアタイムは誰かと公平狩り。

 人の少ない時間は敵のランクを落としてソロ狩りすれば経験値なんて余裕余裕♪

 大した障害でもなかったですよー。


「ニート、ですか……。そんな≪アルミちゃん≫様も今は立派に就職されてしまって……。すっかりオーラムオンラインにログインされないのでとても悲しく思っていました。何度あの『さわやか通信』という会社を爆破してやろうと思ったことか……」


「ちょ、ちょ! なんでわたしの働いている会社を知っているんですか⁉」


 そんなのプロフィールに登録するところなかったですよね⁉


「田中有海様。私はあなたのファンなのです。あなたのことは何でも知っていますよ」


 まさに天使の微笑み。

 本名まで……怖い……。


「なんでもって……」


「はい、何でも。今の会社に不満を持っていらっしゃることも、辞めたくても親の手前、やめるにやめられずにいることも、何でもです」


 誰にも相談なんてしていないのに……。

 いったいどういうこと……。


「ですが大丈夫です。御社の社長の飯沼氏はまもなく脱税の容疑で逮捕されます。良かったですね。これでもう親の顔を立てなくても良くなりました」


「何を言って……」


「コンソール内のウィジェットを起動して、部長の柴田さんからのメールを確認したほうが良いですよ」


 ウィジェット……。

 没入感が薄れるから、わたしは基本オフにしているけれど、AOはフルダイブ中でも、外部のSNSやメッセンジャーなどと連携することができる機能がある。


 とりあえず起動してみよっか。


「あっ、部長からメッセージが。えっ、ホントに……」


『社長が脱税の容疑で拘留された。役員以外はしばらく自宅待機との命令が出た』


 社長が脱税!

 自宅待機って……あー、わたし、今日ホントに会社に行かなくて良くなっちゃった……。


「懸念の1つは解消されましたね。有海様、それでは私たちの話を始めましょうか」


 えっ、待って待って。

 なんでこんなこと事前に知ってたの⁉


 マジこわっ!

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