第15話 特殊クエスト発生!

【それではまずは『迷子の子ネコ探し』から始めましょう。最初に書かれているのは――】


 依頼主≪ピート≫くんに会いに行こう。


「えーと、≪ピート≫くんがいるのは……」


【クエスト欄に書かれています。『魔法商店』です】


「おー、AOの時より便利になってる! コンソール画面を開けば次の行先がわかるんだね。これならクエスト中に迷子になる心配もなし!」


 AOで確認できたのはクエストが進行中ってことくらいで、内容はあんまりよくわからなかったからね。地味な進化、うれしいね。


【それはこの≪サポちゃん≫によるアシスト機能です】


 そう言って、自慢げに尻尾を揺らして空中を駆ける。


「≪サポちゃん≫ナイス! これからもいろいろ教えてね。『魔法商店』は、この『中央広場』からちょっと西に行ったところだったよね。さっそく行ってみよう!」


 そこまで広い街じゃないし、すぐに着いちゃう。

 なんならお店の看板が見えているし。



「こんにちはー」


「こ、こんにちは!」


 びっくりしたわ。

 すれ違う人に挨拶されて、反射的に挨拶を返してしまった。


 高そうな長剣を下げて……高レベルっぽい装備だ……。

 VRMMOってこういう感じだっけ?

 知らないプレイヤーと挨拶を交わした記憶なんて……。ああ、そっか。中の人はAIなんだっけか。人間のプレイヤーよりフレンドリー。とりあえずミツルギさんって呼んでおこ。なんか頭に浮かんだ名前がそんな感じ!


「こんにちは、ルーキーさん。お困りごとはないかい?」


「こんにちは! はじめまして! 今はクエストの最中なの。だから大丈夫です! ありがとうございます!」


 今度は髭モジャモジャの年季が入った感じのおっさんプレイヤーだ。

 勝手にモジャさんって呼ぼう。

 さすがにナンパ……ではなさそう。知らない人と挨拶……こんなVRMMOは初めてかも。不思議な感覚だよ。


【ここは最初の街『ウルティムス』ですが、≪アルミちゃん≫がひさしぶりに参加してきた新人冒険者のようですね。皆すでに中堅からベテラン冒険者になりつつありますので、新人冒険者が入ってきたのが珍しくて仕方ないのですよ】


「そっかあ。わたしって初心者丸出しの装備だし、すぐにルーキーだってわかるよね」


 初心者にはできるだけやさしくしなさい、かあ。


 いつの間にかMMOの心得を忘れてしまっていたよ……。

 初めてこの地に降り立ったルーキーが右も左もわからず困っていたら、やさしくサポートをしてあげる。それこそが昔から続く古き良きMMOの伝統だったね。わたしも早くレベル上げして、ルーキーのサポートができるようになりたいなあ。



* * *


「よし、『魔法商店』に到着、と。ごめんくださーい」


 お店の扉の前に立つと、自動でドアが開く。

 マップ移動に違和感がほとんどない。

 できるだけ自然に、扉を開けてお店の中に入ったように感じられるための配慮がされているみたい。すごく滑らか。AO2になってこの辺りも改良されていそう。


「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」


 お店の店主『黒魔導士ウォーロック』の≪ダレン≫さんが声をかけてくる。


「あー、えっと……商品……ではなくて……≪ピート≫くんいますか?」


 店内を見渡した感じ、≪ピート≫くんの姿は見当たらない。

 

「はい、≪ピート≫ですね。呼んできますので少し待ってくださいね」


 笑顔で頷くと、≪ダレン≫さんはトレードマークのとんがり帽子をレジカウンターにおいて、奥に引っ込んでしまった。


「行っちゃったね……」


【しばらく店内でも見て回りながら待ちましょう】


「そうだね」


 この、『魔法商店』は『黒魔導士ウォーロック』の≪ダレン≫さんが経営するお店だ。

 ≪ダレン≫さんは昔宮廷魔術師としても活躍したことがあるほどのベテラン魔法使いらしい。年齢不詳の美魔女……魔法使いじゃなくてホントに魔女なのかもしれないけど⁉


 かなり暗めに照明を落とした店内が、若干怪しげな印象で≪ダレン≫さんの美魔女(?)っぷりにピッタリの雰囲気……かもしれない。いつきても、自然と背筋が伸びてしまう……。


 取り扱っている商品は、ポーション類や転送・転移アイテムなどの消耗品がメイン。ようするに魔法雑貨屋さんだ。魔法関係の装備類は別の『魔道具店』のほうで取り扱っているから、探し物をする時には注意が必要だね。武器・防具の改造・精錬もそっちのお店に『魔法鍛冶師マジックスミス』がいる。


【≪アルミちゃん≫、とんがり帽子に話しかけてみてください】


「え、どういうこと?」


【そのままの意味です。カウンターに近づいて】


「う、うん。……えっと、こんにちは?」


 これに何の意味が……?


『こんにちは。現在、店主≪ダレン≫は不在です。アイテム類をお求めの方は要件をどうぞ』


「ぼ、帽子がしゃべった⁉」


 ま、まさか帽子が店番をしているの⁉


『その装備は……初心者の方ですね?』


「あ、はい。わたし、今日この街にやってきたばかりで……」


『そうでしたか。最初の街『ウルティムス』へようこそ』


「ど、どうも……お世話になります」


 わたしがルーキーだってわかるんだ。

 このとんがり帽子は自動応答しているだけじゃないってことかあ。なんかすごい!


『初心者冒険者の新たな門出の応援として、ささやかながらプレゼントをさせていただきます』


「え、あ、ありがとうございます?」


 特殊クエスト『ルーキーへの祝福』を自動受注?

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 初級HP回復ポーション100個、中級HP回復ポーション100個、初級MP回復ポーション100個、中級MP回復ポーション100個、万能薬100個、蝶の羽10個、武器・防具修理キッド10個、1000[SEED]を獲得しました。

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 アイテム獲得のメッセージが流れる。

 え、すごい!

 こんなクエストが⁉


『どうぞこれからも『魔法商店』をご贔屓に願います』


「ありがとうございます! ホント助かります!」


 すごい……。

 初心者にはめちゃくちゃうれしい消耗品全部入りセットだ……。


【このように、オーラムオンラインにはなかった特殊クエストも多数用意されています】


「びっくりしました……。へぇー、いろいろ調べて回りたいかも。でもこれは普通にお店に通っていたら出会えないクエストだー」


 ≪ダレン≫さんが不在の時にとんがり帽子に話しかけないと発生しないクエスト。

 しかもルーキー限定だし。

 こういうのがいっぱいあると思うとわくわくしてくるね!


「おまたせしました。≪ピート≫、こちらの方があなたに用事があるそうですよ」


 と、タイミングよく裏から≪ダレン≫さんが戻ってくる。

 

「お姉さん、何かボクに用事ですか?」

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