第32話 なんでここにゼリンが大量に集まってくるのか、知りたくないですか?
この場所に集まるゼリンの習性を研究したい、どこかの貴族の旦那様。
おじいちゃんから受け継いだ土地を大事にしたい、≪サンドラ≫さん。
一見、話は平行線のように見えるけれど――。
「話は、この『猫の眼』ギルド、期待の大型新人≪アルミちゃん≫が聞かせてもらいました!」
ナイスなアイディアとともに、≪アルミちゃん≫が華麗に参上♪
トラブル発生の際には、ネゴシエーターの≪アルミちゃん≫にすべてお任せだよ!
【いつの間に転職したのですか?】
違うってー。
わたしね、会社では仲裁役で通っていたのよー。
みんな夜中になるとすぐにケンカし出すから、「まあまあまあ」みたいな感じでいつも止めてたの!
【≪アルミちゃん≫のあの行動は仲裁だったのですね】
そういえば≪オーラム≫さんにはすべて見られていたんだっけ。
わたしがいないと毎日流血沙汰になっていたかもしれないよね。わたしが会社を救っていたんだなあ。
【三白眼で睨みつけてその場の全員を黙らせていただけでは……? まあ……お手並み拝見といきましょう】
ふっふっふ。ん? わたし、人のことを睨みつけたりしていないよ?
【記憶の改ざんが認められます。≪アルミちゃん≫は自分の記憶を都合が良いように書き換える能力があるようですね】
失礼な……。
良いからこの場は、≪アルミちゃん≫に任せんしゃい!
「というわけでですね。みなさんお困りのようですね!」
「どちら様でしょうか……?」
「こっちは大丈夫よ。≪アルミちゃん≫さんはお庭の草むしりをお願いね」
このお呼びでない感じ……良いね! 逆に燃える!
【変な人】
変な人って言うな!
こういう期待されていないところから逆転するから気持ちいいんでしょうが!
見てろよー!
「むしろね、草むしりが早く終わる方法でもあるんですよ!」
「どういうことかしら?」
≪サンドラ≫さんが興味を示した。
どこかの貴族の使用人たちはぜんぜんな様子。
「なんでここにゼリンが大量に集まってくるのか、知りたくないですか?」
男たちに向かってニヤリ。
≪アルミちゃん≫に惚れるなよ?
「それを研究しているのが旦那様なんだよ。お前みたいな小娘にはこの研究の価値がわからないのだろう? 黙っていなさい」
「あー、そういうこと言っちゃいますぅ? わたしが15歳で超絶かわいい女の子だからって、そういうこと言っちゃいますぅ?」
「いや……超絶かわいいとは一言も……」
「はいはい、ストップ!」
皆まで言わなくて大丈夫です。
わたし、自分がかわいいことはすごーくよく知っていますから!
「わたし、知っていますよ?」
「だから何をだ?」
「だーかーらー! そちらの旦那様が研究するまでもなく、ゼリンが何でここに集まってくるのかってことですよ!」
「お前な……旦那様がこの研究に何年……何十年費やしていらっしゃると思っているんだ。そんな簡単にわかったら苦労しないんだよ……」
男の1人――少し年配の、たぶん偉いほうの執事さんがため息交じりに呟く。
そっかあ。
真面目な旦那様なんですね。
そしてきっと、部屋に籠って研究ばかりしていて、現場をちゃんと観察したことがない方なんですね。
「でもわかるんだから仕方ないじゃないですか!」
「ほぅ、そこまで言うなら言ってみてくれないか。ただし、適当なこと抜かしていたら、タダじゃ置かない。『猫の眼』ギルドか……。ギルドを通じて正式に抗議するからな」
なんでこの流れで恫喝してこれるの……。
絶対的にわたしのほうが有利な状態でしょう?
「そうですねー。前金で10万[SEED]。研究の裏付けが取れたら成功報酬として10万[SEED]。もし、その旦那様名義で研究結果を世の中に発表するなら、追加で1000万[SEED]。金額の交渉には応じません。さ、旦那様のところに戻って契約書を作ってきて。サインして正式に届出をしてからじゃないと何も教えませんからね」
「なんだと……」
あ、体プルプルさせて……もしかして怒っていますか?
≪サポちゃん≫、戦闘になったら、例のデモンストレーションモードいける?
【いけませんよ。私の説明を聞いていましたか?】
なんで⁉
まだLv.1だし、てっきり行けるものだと……。
【デモンストレーションモードにはクールタイムがあるのですよ。前回使用から72時間経過しないと再使用はできません。デモンストレーションモード無双をされても困りますからね】
うそん!
煽りに煽りまくっちゃったし、この人たちがキレて殴りかかってきたらどうするのさ⁉
【殴られて気絶したら良いんじゃないでしょうか】
やだよ!
わたしのキレイな顔に傷がついちゃう! 傷物になっちゃう!
【後先考えずに行動するからですよ。だいたいですね、その程度の情報でそんなに高値を吹っ掛けるなんて……】
良いじゃーん。
この人たちが知らない。でもわたしは知っている。
この人たちが人生を費やしてまでほしがっている情報に、わたしは値段をつけた。
それを買うかどうかは、旦那様次第なんじゃない?
【それで殴られていたら世話ないです……】
あきれ顔の≪サポちゃん≫。
あ、自分だけ殴られないように空中の高いところへ!
ずっるいぞー! おい、相棒! やられる時は一緒だろー⁉
「良いだろう。それだけ強気な交渉をしてくるということは、さぞかし自信があると見て良いんだな」
お、意外と冷静になった?
ああ、後ろの若い執事さんと話し合ったのかな? ひとまず助かったぁ。
「自信あります! 知りたくて仕方ないんだったら、損はしないと思います!」
情報自体はホント。
価格相応の価値があるかどうかは知らないけどね?
「ではこちらからも条件を1つ追加させてもらおう」
「なんでしょうか?」
「もし、旦那様が研究結果を公表した後に、お前の持っている情報が偽の情報だと判明した場合――」
「場合?」
「『猫の眼』ギルドに賠償請求をさせてもらう」
おっと?
これは……大事になっちゃいましたよ?
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