第17話 正義感の強いおじさん、助けて♡

 初心者クエストだと思っていた『迷子の子ネコ探し』。

 実はマルチエンディングクエスト方式で高レベル向けのクエストに移行しつつある、か……。


 どうしようかな。

 時限式で、あと9分しかないのにノーヒント……。


 ≪ピート≫くんのほうを見ると、不安そうな目でわたしのことを見ていた。

 

 まずい……。

 わたしが不安そうにしていると、≪ピート≫くんにも不安を与えちゃう。

 せっかく頼ってくれたんだから、わたしが何とかしてあげないと!


「よーし! とりあえず状況を聞かせて。黒ネコのミミちゃんがいなくなったのはどこ? おうちの中?」


「うん……家……。ミミがいないことに気づいたのは昨日の深夜12時頃だよ。タイマーが鳴ってミルクの時間だから眠かったけど起きたの。そしたらミミがいなくて……家の中を探したけれどいなくて、外にもいなくて……。お母さんはそんなに心配いらないから早く寝なさいって……。明るくなってから一生懸命探したんだけどいなくて……」


「そっか……。じゃあけっこう街の中は探したってことだね……」


 生まれたての子ネコが、1匹でそんな遠くまで行けるとは思えない。

 家の中にいない。

 周辺にもいない。

 となると考えられるもっともありそうなパターンは――。


 誰かに連れ去られたのかもしれない……。


 でも目的は?

 身代金要求?

 それだったら≪ダレン≫さんが何か言うはず。なんで「心配ない」なんて言ったんだろうね? 何か知っていることがあるってことかな? 戻って尋ねる?


 でもなんでわざわざ捨てネコを盗んだりしたんだろ。

 夜中に忍び込んで盗まなきゃいけなかった理由……。

 まあ、≪ダレン≫さんはベテラン冒険者でかなり高ランクの魔法を使えるとは思うから、正面から戦いたくなかったっていうのはわかるけれどね。


 んー、わからない。


「ねぇ、≪ピート≫くん」


 もう少しヒントをちょうだい。


「何、お姉ちゃん?」


「ミミちゃんって、その……普通の黒ネコちゃんだった?」


「普通?」


「なんかこう、特殊なスキルを持っているとか……。羽が生えていたり、魔法が使えたり。ほら、うちの≪サポちゃん≫みたいに空中を歩いたりとかしてなかった?」


 もしかしたら希少種的なネコ……ネコじゃない別の何かで、それを狙って盗んだ可能性とか!


「ううん。羽は生えていないよ。まだ目もちゃんと開いていないし、あんまり自分では立ち上がれていなかったよ。すっごく食いしん坊ですぐに『お腹空いた~お腹空いた~』って泣くんだけどね」


「そっかぁ。普通だね……。赤ちゃんだし、お腹が空いたって鳴くのは当たり前だし」


 ん、違和感。

 さっきからこっちを見ている人がいる。

 『移動ポーション屋』?

 そんなのこの街にいたっけ。

 もし行商の人だったとしても、≪ダレン≫さんの『魔法商店』がある目の前でわざわざポーション販売をする?

 おかしい。

 怪しい……。


「≪ピート≫くん。絶対お姉さんから離れないで」


 確認するしかない。

 きっとこれがクエスト進行の鍵だ。


「すみませーーーーーーん!」


 できる限りの大声を出しながら、『移動ポーション屋』に近づく。

 周りのベテラン冒険者たちにも注目してもらえるように。

 もしわたしの推測が間違っていたとしても、別におかしなことにはならないはず。


「すみませーーーーーーん!」


「お、おう。いらっしゃい。デカい声だね。聞こえているよ。ルーキーさんかい? 何のポーションにいたしやしょう!」


 バンダナとマスクでできるだけ顔を隠している怪しげな男。

 声だけは愛想が良い。


「えっとー。初級HP回復ポーション10個ほしいんですけどー。いくらですか?」


「まいど! 初級HP回復ポーションは……1個5[SEED]だから、全部で50[SEED]だ」


 きた。

 食いつくポイントはここだ!


「えーーーーー! うっそーーーーー! 初級HP回復ポーションが1個5[SEED]もするのぉぉぉぉぉぉぉ⁉ わたしが初心者だからって騙そうとしているんだぁぁぁぁぁぁ! 誰かー! 助けてー! 初心者を騙してお金を巻き上げようとしてくる悪徳ポーション屋がいますーーーーーーーー!」


「おい、お前何のつもりだ! やめろ! 大声で人聞きの悪いことを言うな!」


「なんだなんだ?」「ぼったくり?」「どういうことだ?」「見たことないポーション屋だな」


 と、どこにいたのか豪華な装備を身につけた冒険者たちが一斉に集まってくる。


「助けてくださいよー! わたしが相場を知らないと思ってぼったくり価格でポーションを売りつけようとしてくるんですぅ」


 涙ほろり。


「なんてヤツだ! お前、どこのギルドの者だ? 誰に許可を得てここで商売してやがる⁉」


 正義感の強そうな冒険者が、『移動ポーション屋』のカウンターを激しく叩く。


「お、俺は何も……」


 たじろぐ『移動ポーション屋』の店主。

 まだ許さない。


「しかもしかもー、わたしが『ちゃんとした価格で売ってください』って言ったら、『うるせぇ、ありがね全部寄越せ。そっちのガキをもらっていくぞ』って≪ピート≫くんを連れ去ろうとしてきたんですよぉ」


「し、してない! 俺はそんなことしてないぞ!」


 ここぞとばかりに女の武器!

 必殺の涙はらはらー。ヨヨヨ。


「ルーキーの子が泣いてるじゃねぇか! お前、ウソまでついてなんてやろうだ! 許さねぇぞ!」


 ありがとうベテラン冒険者のおじさん。

 正義感強い人って大好きよ♡


【三十路の独身女性って怖いですね】


 三十路言うな! まだ29歳!

 今はAO2の≪アルミちゃん≫だから、実年齢のことは言わないで!

 こんなにかわいくってどこからどう見ても未成年のピチピチ☆ルーキーちゃんでしょ♡


【ソウデスネ】


 もうっ! 気持ちよくロールプレイさせてよ!

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