第25話 アルミちゃん、初めての戦闘

【『デモンストレーションモード』起動します。≪アルミちゃん≫、闘技場に上がってください】


 おおー!

 戦闘だー!


【と言っても、≪アルミちゃん≫はLv.1です。それに戦闘JOBもまだ初期状態なのでLv.1です。そこまで強いモンスターとは戦えません】


 まあそうだよね。

 少しずつレベルを上げていかないとなあ。


【ギルドマスター・≪ニャンニャンティア≫さん】


「なんじゃ? ≪サポちゃん≫じゃったか。気軽に、『姫』と呼んで良いぞ」


【姫。Lv.30くらいの方を数人集めていただけますか。≪アルミちゃん≫の実力を模擬戦闘でお見せしたいのです】


「承知した。お前たち、こっちにくるのじゃ」


 ちょっと≪サポちゃん≫⁉

 わたし、Lv.30の人と……しかも複数人と戦うの⁉ わたし、まだLv.1なんだよ?

 AOの対人戦闘PvPって、Lv.10違うとまったくダメージが通らなくなるんだよね? 逆にLv.10上の相手からの攻撃は即死クラス触れられたら気絶になるはず……。対人戦闘PvPはあんまりやったことがないから、あんまり詳しくは知らないんだけど。


【それくらいのハンデがないと≪アルミちゃん≫の有用性が示せませんから】


 さすがに無茶しすぎでは……。

 ほらー、めっちゃ強そうな感じの人きちゃったじゃーん。


「JOBに指定はあるかえ?」


 そう言って≪ニャンニャン姫≫が闘技場に上がらせたのは、片手剣の『騎士ナイト』、両手杖の『魔術師マジシャン』、とげとげハンマーを握った『神官プリースト』の3人だった。バランス的にちゃんとしたパーティーだよ、これ……。ガチで連携取る気満々……。


【この方々で問題ありません。もちろん本気で攻撃してもらって大丈夫です】


「ちょっと≪サポちゃん≫⁉」


 無茶言わないでよ!

 わたし、AO2にきてから初戦闘なんだよ?


【私の指示通りに動いてください。闘技場エリアなので、相手を倒してもPK行為による罰則オレンジペナルティはつきませんよ】


 それはまあ、そうなんだろうけどさあ。

 心配するのはPK行為による罰則オレンジペナルティのほうじゃなくてわたしの気絶……。


【私の指示通り動けば問題ありません】


 まあ、≪サポちゃん≫そこまで言うなら任せますけどー。


【それでは模擬戦闘を開始いたします。キャラクター≪アルミちゃん≫戦闘状態に移行します。『Wish List』アンロック。カウント3・2・1――『JOB』選択ロールスタート】


 ≪サポちゃん≫の口調が、それまでの抑揚たっぷりの滑らかなものから一転、システムボイスのような平板なものへと切り替わる。


 出た!

 契約書に出てきた『Wish List』だ! ここで使うのね⁉


【はい、今は戦闘時の『JOB』選択を行うための『Wish List』を使用しました。システム介入で敵の情報をインプットし、戦闘に最適なJOBが選択されます】

 

 ほぅほぅ。

 それで……?


【選択――『魔術師マジシャン』】


 お、おお? ということはわたしは『魔術師マジシャン』になるってこと⁉


 それで……どうすれば?


【それでは『他職への変身システムトランスフォーメーション』の利用を開始します。≪アルミちゃん≫フォームチェンジ!】


 ≪サポちゃん≫の「フォームチェンジ」という言葉に反応して、わたしの体が白い光に包まれていく。


「えっ、わたし変身するの⁉」


【そうです。一時的に『配信者ストリーマー』の体の中に、『魔術師マジシャン』のJOBを融合させます】


 JOBを融合? そんなことが……なんかすごい……。

 うわっ、わたしの体、虹色に光ってる⁉


【ニチアサの変身シーンを参考にエフェクト処理をしています】


 まさかの女児向け魔法少女の変身シーンを参考にしてた……。

 なんか複雑。


【厳しいレイティングもばっちりクリアです】


 そうかもしれないけどさあ。

 29歳にもなって、小学生の魔法少女みたいに変身させられるわたしの心のケアは?


【そんなことを言っても……魔法少女に憧れはありますよね?】


 ……実はちょっとだけね。へへへ。

 今はほら、田中有海じゃなくて≪アルミちゃん≫だからね。≪アルミちゃん≫は15歳設定だし、魔法少女としてもギリ行けるでしょ?


【29歳でも十分行けますよ。私は元の有海さんでも行けます】


 それはちょっと……。

 あのさ≪サポちゃん≫……ちょこちょこ≪オーラム≫さんの人格出ちゃってるから気をつけて? 


【なんのことでしょうか。≪オーラム≫はオーラムオンラインのGMで、≪サポちゃん≫はオーラムオンラインPhase.2のサポートAIです。両者に関連性はまったくありません】


 それで強引に押し通すつもりなのね……。

 まあ良いけど。


【フォームチェンジ完了しました。『魔術師マジシャン』≪アルミちゃん≫誕生です】


 おー、紺色のローブを着て、同じく紺色のとんがり帽子をかぶって、手には短めのワンド。初心者魔法使いのスタイルだー。


【さあ、張り切って変身後の決めポーズと決めゼリフをどうぞ!】


 えっ⁉ 決めポーズと決めゼリフ⁉


【魔法少女には必ずありますよね?】


 不思議そうな顔しないで……。

 今初めて変身したのに、わたしにそんなのあるわけないでしょ。


【だったら即興で考えてください。ほら、視聴者の方が期待していますよ】


 そう言えばなんでも従うと思ってからに……。


 えっとえっと……。

 

「ひらりとマントを翻し、華麗でかわいい『魔術師マジシャン』≪アルミちゃん≫ただいま参上♡」

 

 ワンドをほっぺたに当てて、右目でウィンク。

 あ、このウィンクから星のエフェクト出してね!


【う~ん。ありきたり。35点。同時接続数が25000を突破しました】


 評価がからい……。

 ありきたりって……。

 即興で考えたわりにはちゃんとしていたって褒めてくれても良くない?

 ホントにわたしのこと好き?


【さあ、戦闘です。ワンドを構えてください】


 うぎゃー! 無視だー!

 がんばったのにひどいよー!


【まずは『騎士ナイト』の彼をターゲットにします。『魔術師マジシャン』スキル『Wish List MG』選択――ファイヤーアロー】


 完全無視!

 良いもん! やってやりますよ!

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