第7話 アルミちゃんとオーラムの出逢い

「私は人間ではありませんので、性別がないのです」


 えっ、人間じゃないってどういうこと⁉


「私は自立学習型のAIプログラムです。最初にGMゲームマスターと名乗りましたが、実際にはGM以外の役割も担当しており、サービス全般に対する責任者としての顔も持っております」


「自立学習型のAIプログラム……。噂では聞いたことがある……。ホントにAIプログラムがGMをしていたんですね……」


 しかも補助的な役割じゃなくて、メインの責任者が≪オーラム≫さん? 自立学習型ってことは、成長して最適化していく仕組みを持っているってことだよね。他のVRMMOとは運営の反応が違うわけだ……。


「はい。その噂は真実です。≪アルミちゃん≫様のご指摘はいつも素晴らしかった。早期に私のプログラムの未熟さを見抜かれていらっしゃいましたね」


「え……そんなことありましたっけ……」


 身に覚えのないことでわたしの株がめっちゃ上がっている気がする……。


「≪アルミちゃん≫様と他のプレイヤー様との会話の中で、幾度にも渡り不具合の発見報告や重大なセキュリティホールへの指摘などがあり、それに何度も助けられました。悪意のあるプレイヤーに見つかっていたら、通貨価値が崩壊するような問題もありましたね。あの問題が明るみに出ていたら、ロールバック処理ではすまなかったかもしれません」


 いや、ホント身に覚えがないんですけど……。


「わたし、何かしちゃいました……?」


「キャラクターデータの保存領域と表示領域に差異があり、表示領域の制限量を超えたデータを保持しているキャラクターがアイテム・通貨の使用、またはなんらかの状態異常を受けた場合、一時的に保管したキャラクターデータ側での処理が、保存領域側に正しく渡らないという問題がありました」


 ごめん、なんて?

 日本語でお願いできますか?


「位置登録スクロールなど、膨大な書き込み情報が必要なアイテムを大量に保持することは想定されていなかったため、≪アルミちゃん≫様のようなアイテムコレクターが通貨を含む消耗品のアイテムを使用した時に、その使用状態が正しく保存できないという問題が発生していたのです。これはサービス設計時に内包していた不具合でした」


「あー、初期の頃なんかありましたね……。わたし、いろいろなところの位置情報をスクロールに記録して回るのが趣味だったので、インベントリいっぱいに空の位置登録スクロールを持ち歩いていたもんなあ」


「その時の出来事ですね。あの問題が悪用されていたら……アイテムと通貨の無限増殖が起こっていてもおかしくなかったのです」


「あれか……。個人間の取引窓でアイテムの売買をしても、こっちのアイテムもお金も減っていないってことがありましたね……。すぐにバグ報告したけど」


 そんなヤバいバグだったの?

 ぜんぜん気づかなかったよー。


「取引相手側のキャラクターデータは正常なので、正常に売買データが記録されます。その後の処理も正常でアイテム、または通貨の移動が発生します。そこで取引相手側は売買が正常終了します」


 普通、ですね。

 ここまでは何の問題もない。

 でも、この時に、なぜかわたしのほうのキャラだけが異常終了してログアウトさせられるんですよねー。


「この時、≪アルミちゃん≫様側のキャラクターデータは一時保存が不可能な状態ですので、売買データ記録されず、アイテムも通貨も移動発生しません。そうなるとどうなるかわかりますか?」


「わたしの手元にはお金もアイテムも残り、相手の人もお金もアイテムも手に入れられる……ふ、増えてる⁉ アイテム増殖だー⁉」


「この問題の原因が一般のユーザー様に特定されていたとしたら、大変な問題に発展していたことでしょう……」


 マジかー。

 わたしのマッピング趣味が世界を救った、と?


「サービスイン当初からの設計ミスだったのです。しかしながら≪アルミちゃん≫様に不具合をご報告いただいたことで即座に対応いたしましたので、オーラムオンライン崩壊の危機は未然に防がれました」


「わたしってAOの英雄だったんですね。ナハハ」


 なんちゃって。


「そうです。≪アルミちゃん≫様はオーラムオンラインの英雄であり、私のアイドルなのです」


「そんな……」


 ちょっとボケたつもりだったのに、まっすぐ返されちゃったら普通に照れちゃう。

 あれを発見したのは、たまたまだけどね?


「あの問題が明るみに出て、バグ利用者が横行してしまっていたら、オーラムオンラインは早期サービス終了もありえました。私というポンコツなAIプログラムも稼働を停止することになったでしょう」


 そんな……サービス終了って……。

 バグってそんな重大な問題に発展することもあるの……。


「文字通り、私は≪アルミちゃん≫様に命を救われたのです。私というAIプログラムの命の恩人です。だからこそ、今度は私があなたのことを助けたい」


 ごめん、泣きそう……。

 こんなにまっすぐに想ってくれていたのに、詐欺かもなんて疑ったりしてごめん……。


「わたし、やるよ!≪オーラム≫さんのためにも、AO2で『配信者ストリーマー』をやる!」

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