第5章 オマケ 文化部には負けないぞ! ボディビル部がリレーに挑戦 しかし落とし穴が‥‥‥

第5章オマケ 意外な落とし穴、いや必然か?


1 僕と部員3人は、体育祭本部のテント裏に集合している。出番は次、部活対抗リレーの文化部部門だ。


「なんでボディビル部が文化部扱いなんだ? 生徒会はちゃんとウチの部の活動を理解してるのかな」と僕が聞くと、

「芸術部門ってことじゃないの。ほら、私たち相手と直接対戦したりしないじゃない」と尚が答え、剛も「まあ運動部扱いで、サッカー部や野球部と一緒に走るよりいいだろ。こっちは前座みたいなもんだし、気楽でいいよ」って続いた。


 文化部部門に参加したのは4チーム。相手は、合唱部、吹奏楽部、かるた部だ。

 ウチの部が男女2名ずつの4名なので、僕が交渉して、「代表選手は4人、半分以上は女性」ということにして貰った。それぞれのチームは、部活のユニフォームを着て、部活で使う道具をバトンにすることになっている。ウチの部のバトンは、尚の家にあった2㎏のダンベル(おもちゃみたい)だ。


「かるた部のバトンなんて、かるた一枚だぞ。ずるいな。しかも坊主のだ。汚しても惜しくないの持ってきたな」と僕が言うと、

「だけど、着物と袴で走るのよ。超大変じゃない。バトンくらい楽させてあげてもいいでしょ」と尚がフォローした。ま、確かにそうだな。


「吹奏楽のバトンはリコーダーか。揃いのブレザーでこっちも走りにくそうだな」

「見て、合唱部なんて、バトンが指揮棒よ。そんなのアリなのかしら?」

「はは、合唱は道具そのくらいしかないからな。仕方ないだろ。ユニフォームもないから制服なんだな。ここは強敵だぞ」


「そうね。一位になると何か貰えるんだったっけ?」

「一人一個ずつアンパン貰えるらしいぞ。あと、名誉だな」

「ああ、『ベーカリー田嶋』のアンパンね。私あれ好きよ。高たんぱく低脂肪だから減量中でも大丈夫そう。走り切って糖分補給しようね」 


 ******


2 「それでは次の種目、K高名物の部活対抗リレーです。まず文化部部門から。吹奏楽部、合唱部、かるた部、そして、チーム数が足りないため回って貰ったボディビル部の入場です!」とアナウンスが入り、選手たちがぞろぞろ入場する。


 なんだそういうことか。ま、確かに3チームじゃ全部入賞だもんな。

 係員の指示にしたがって、第一走者がライン上に並ぶ。


 ウチの先鋒は香津美ちゃんだ。香津美ちゃんは、黒い膝上のスパッツに、ゆるめのグレーのタンクトップ。いつもトレするときの恰好なんだな。

 いや、でも胸ぐり大き過ぎませんかね。深い谷間がガバっと出て、「たわわ」って感じですよ。青少年の目には毒じゃないでしょうかね。と、思わず心配してしまったものの、とてもいい眺めであることは間違いないので、何も言わずに、皆で「頑張ってこい。頼んだぞ!」と送り出す。

 香津美ちゃんは、気を付けしてシュタっと敬礼しながら「はいっ!」と短く声を発し、ライン上へと向かった。


 スターターがピストルを構え、「パンッ!」って、さあ、スタートした!

 香津美ちゃんは勢いよく飛び出し、綺麗なフォームで走っていく。一周は150mだが、普段走り慣れていない人には、かなり厳しい距離だ。

 50mほどで隊列が定まり、先頭はやはり合唱部、少し離れて吹奏楽部、わずかに遅れて香津美ちゃん、そして断トツのビリはかるた部だった。やっぱ振袖でリレーは無理だよ‥‥‥。


 そうして向こう正面に入ったところで、おお、初めて気が付いた!

 揺れる揺れる香津美ちゃんの、きょ、きょ‥‥‥すいません、言えません。豊かなバストが上下に大きく揺れています。いや、これはすごい振幅だな。30㎝くらい? 生徒の桟敷席からも、「おおっ!」という桃色の反応が伝わってくる。だけどダンベル2㎏と大き目リンゴ2個抱えたら、それは走りにくいだろうな‥‥‥。(ちなみに、正面の桟敷席では、おバカでエッチな長身のテニス部一年男子が、感動して「おお、揺れてるー。きょ、きょ‥‥‥」とつぶやいていた。しかし、彼と僕たちの人生が2年後に交差することになるとは、まだ誰も知らなかったのだった)。


 香津美ちゃんは最後かなりへばって、離れた3着で戻ってきて「剛さん! お願い!」って、剛に愛のバトンを手渡した。

 剛は、しっかり愛を受け取って、ロケットのようにスタートし、おお、結構速いぞ。さすがもと柔道部。文化部相手ではやはり力が違う。向こう正面でもかなり差を詰め、僅差の3位で帰ってきた。


 さあ、剛からダンベル受け取った尚がスタート! 尚はナイボの予選で着てた、ピンクのボクサーパンツと白のトップスだ。健康お色気がとってもいいぞ。

 おお! すごい速い! さすがもと陸上の短距離選手。長身を綺麗に前傾させ、大きなストライドでどんどん前との差を詰める。キャップの穴から出した長いポニテが真っすぐ後ろに流れてる。かっこいいなあ。向こう正面に入って、まず吹奏楽部を追い抜き、合唱部も射程に捉えた。


「見て、あれ、相沢さんじゃない? かっこいい。背高いー。綺麗ー。まるでオリンピックの美女選手みたい」

「尚さんスタイル抜群、脚長っ! 色白っ! あの水着も最高!」みたいな声が飛び交っているに違いない。って、あれ水着じゃないんだけどね。


 尚は、最終コーナーを回ったところで、ついに合唱部を捕らえた。

「さあ、追い上げたボディビル部がここでトップに立ちました! 勝負はアンカーへ!」というアナウンスが場内を盛り上げる。


3 「昇! 頼んだわよ!」 尚からダンベルを受け取り、いよいよアンカーの僕がスタート。僕はナイボの予選用サーフパンツだ。


 おお、軽い、体が軽いぞ! マジかこれ? そうだ64㎏まで減量したから、贅肉が全部落ちて軽やかなんだ。まるで風のように走れるぞ!


 僕は、第2コーナーまで、どんどん後続との差を広げ、快調なペースで飛ばす。

「さあ、ボディビル部主将の小田島君がぐんぐん加速する。これは速い!」って、アナウンスが入ってる。

 よし、目立ってるぞ。僕が今日のヒーローだ。さあ、あと100m。


 ‥‥‥しかし、そうは問屋が卸さなかった。向こう正面に入ったところで、

「ううっ、なんだ? 体が重い。動かないぞ。どうなってんだ?」と突如失速してスローモーに。

 こ、これは減量のせいだ。低血糖だ。電池切れだ。なんと50mしかもたないとは‥‥‥。ああ、こうなると2㎏のダンベルが重いよー。こんなの、普段はお手玉みたいなもんなのに。


「おっとー、小田島君どうした? 突然失速しております。頑張れ!」とアナウンスが入り、必死に足を動かすも、ペースがた落ち。まず合唱部に抜かれ、第3コーナー過ぎたところで吹奏楽部に抜かれた。

 もう、ジョギングに毛の生えた程度の速度しか出ず、最後の直線で、ついにかるた部にも抜かれ最下位に。ああ、袴の後ろ姿が遠ざかって行く。


 これはもうだめだ。みんなすまない。哀れ小田島、グラウンドに死す‥‥‥とか気分を出しながら立ち止まり、膝に手を当て息を整える。あー、力入んねえ。


 と思ったら「まったくあんたも情けないわね。その立派な筋肉は観賞用なの? ほら、肩貸しなさいよ!」って言いながら、尚が救出に来てくれた。

 剛も「まあ、減量中によく頑張ったよ。俺たちしか分かんないけどな」って言って、反対の肩を支えてくれた。

 香津美ちゃんは、「はい、あと20m。昇さん、頑張ってゴールしましょう!」って元気に声かけながら、両手で僕の背中を押してくれた。


「あれー? 手を貸して貰ったら、その時点で失格なんじゃないのか?」

「もう最下位決定してるから関係ないでしょ」

「あ、そっか。そうだな。あはは」


「力尽きたキャプテンを部員が助けてゴールに向かっております! なんという美しい友情でしょうか。皆さまボディビル部の健闘に大きな拍手を!」ってアナウンスが場内に響き、「しょうがねえな」って感じで観客からパチパチとまばらな拍手が起こった。

 いやー、恥ずかしいなこれ。かっこ悪い。黒歴史確定です‥‥‥。


 ******


4 皆に助けられて、ヨレヨレとゴールテープを切ったところで、すぐ文化部部門の表彰式開始。

 ビリの4位のところに皆で並んで、3位のかるた部が赤いリボンを貰うのを横目て恨めしそうに見ていたら、あれ? 生徒会長から「ボディビル部頑張った。すごく盛り上がったよ」の言葉とともに、アンパンを4つ授与された。


 なんだよー、全員貰えるんじゃないか。必死こいて頑張って損しちゃった。

 あ、違うか、それは勝った人の言うセリフか。ビリでも貰えたんだからラッキーだったんだな。


 体育祭の途中だったけど、「アンパンすぐ食べたいわね」「うん、身体動かしたからな」ということになって、皆で部室に移動。


「頑張った。お疲れ様―!」って言いながら麦茶で乾杯。

 あー、アンパンうめー。電池切れの身体に糖質が染みわたるー。勿体ないから、ちびちび食べよう。

「あー、うまいうまい。これぞ青春の味だな」

「ほんとね。お店で買って食べてもここまで美味しくないものね」


「あはは、そうだそうだ」って言い合いながら、再び皆で乾杯したのだった。




→ 今回は「お口直し」って感じでしたね。アンパンって、減量期にはすっごくすっごく美味しいんですよ。特にセブンの4個入りのやつ。


 部活対抗リレー、よく聞きますけど、面白そうですよね。わたくしの高校にはなかったので、羨ましいです。テニス部で出て見たかったなあ。

 次章の第6章は、前橋編後半です。表彰式とお楽しみの打ち上げ、それと、ちょっと‥‥‥いや、結構かな、お色気もありますよ。


 それではまたお会いしましょう。


 小田島 匠

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