第4章 オマケ三連発! 「減量こぼれ話」 「絶対女王の眼差し」 「大会直前マッチョカルテ」

第4章 オマケ1 減量五景(実話)


1 駅ホームのベンチで


「あ、電車来たわよ」と尚が促し、僕はベンチから立ち上がった。が、その時、

「う、これはダメだ。低血糖でめまいが‥‥‥」

 しゃがみ込んで意識の回復を待つ。


「ちょ、ちょっと。しっかりしなさいよ!」

「お茶飲もう、お茶」 ゴクゴク 「うわ全然ダメだ。何か食べ物をー」


「あ、ホ、ホリヒロのこんにゃくゼリーがあるわよ。ゼロカロリーだけど。はい」

 チューチュー 「お、なんかよさげ‥‥‥でもダメー! 全然身体が騙されない。何かカロリーのあるものをー」


 ガサガサ 「あ、部室で香津美ちゃんに貰ったクッキーが。ほらカントリーマミーのチョコよ!」

 ボリボリ 「チャラララーン!」


「‥‥‥今、口で言ったじゃない」

「すっかり回復した。元気一杯。カーボは偉大だ!」

「‥‥‥絶対まだ吸収されてないわよ」

「うん、身体がカーボ入ってきたことを理解した時点で復活するんだな」


「ははは、人体の神秘ね」


2 よく見る夢


 おー、丼飯だ。大盛りだ。すげーうれしー。ふりかけかけて食べよう。いただきまーす!


 ‥‥‥ハッ? 夢か? ああ、またこの夢見てしまった。せめて食べた後に目覚めたかった‥‥‥。夢で食べてもちゃんと美味しいんだよなあ。


 ‥‥‥また寝よ。丼飯よろしく。俺。


3 好き家にて


「師匠、朝ご飯食べながらハイボール飲んでカロリー大丈夫ですか?」

「いや、アルコールはエンプティカロリーだから。熱になるだけだから。いっくら飲んでも大丈夫!」

「そりゃ単体で飲んでたらそうでしょうけど、ご飯と一緒なら、単純にカロリーがプラスされるだけじゃ‥‥‥」

「そんなことはない! と、頑なに信じている。意思の力は大事だぞ」


尚「それ、トレーニーみんな言うけど、都市伝説なんじゃ‥‥‥」

僕「まあ、実際それでこの身体が出来てるんだから、いいんだろ」 


尚「ははは、信ずる者は救われるのね」


4 家系ラーメンの前で、


「俺、家系ラーメン食べるとお腹壊すんだよね。脂が合わないのか、30分くらいでピーゴロロって」

「へー。そうなんだ」

「なあ、これって‥‥‥食べてないことになるんじゃないかな?」

「今のあんたなら30分でも強引に半分くらい吸収するんじゃないの。脂と糖を。キヒヒ」


「‥‥‥やめときます」


「はは、それがいいわよ」


5 「なあ、尚。献血って‥‥‥」


「バ、バカなこと考えるんじゃないわよ!」

「まだ何も言ってないじゃないか」

「今のあんたの血なんてドロドロの貧栄養で役に立ちゃしないわよ! 貰った人が迷惑よ!」


「‥‥‥そうだな。やめときます」


「ははは、それがいいわよ」


 ******


第4章 オマケ2 女王の慈愛


 あ、昇君がスクワットやってる。今日は私よりちょっと早いんだな。

 スクワット80㎏でやってるのか。ずいぶん軽いな。私だって100㎏でやってるのに。やっぱりまだまだ細いんだ。

 でもすごく素敵なスタイル。手足がしなやかに伸びて、まるでバルクつけるための白地のキャンバスみたい。もちろん努力次第だけど、この子、一体どこまで行けるんだろう?


 セット終わるの待って声掛けよう。


「昇君、おはよう。今日は脚の日?」

「ああ、優里さんおはようございます。そう、脚なんですけど、減量末期でパワーが出なくて、80㎏でハーフ(曲げ切らずに途中で切り返すこと。負担が軽い)なんて恥ずかしいです」

「減量中は元気出ないからねー。できる範囲でやるほかないよ。でもすごく綺麗なフォーム。あれならちゃんと刺激入ってるわよ」 嘘よ。見てなかったわ。


「あれ? 今日はTシャツなんですね。それでもすげー迫力だなー。なんかミサイルみたい」 ふふ、見てる見てる。可愛いな。

「私だっていつもガバっとしたの着てるわけじゃないのよ。残念だった?」

「ちょっとだけ」って言って、彼は鼻に小じわを寄せて微笑み、人差し指と親指で『ちょっとだけ』ってマークを作った。‥‥‥やだ、この子、やっぱり可愛い‥‥‥。


「今日は尚ちゃんとは別の日なんだ」

「そうですね。昨日は一緒に補助しながらやりましたけど。でも補助って効きますねー。すごく刺激が入って、減量中でもバルク維持できてる感じです」 


 ふうん、そう。尚ちゃんに補助してもらってるんだ。あの子、自分のトレ犠牲にしてこの子の世話してるんだ。ふうん、ほんとに夢中なのね。こないだ釘を差されちゃったの思い出したわ。


「あ、邪魔しちゃったわね。どうぞ、次のセットやって。補助に入るわよ」

「ハイっ、て、え?」

「ほら早く。インターバル長過ぎよ」


 彼は戸惑いながら、バーベルを肩に担いでラックから外し、足元を確認して安定させてからスクワットを開始した。長い脚が90度に折れて、お尻が綺麗に突き出されて、ああ、いいフォーム。さっきは見てなかったけど。


 3、4・・5・・あれ、もう苦し気だ。6・・7・・


「補助入ります」と言って、私は彼の後ろから抱き着いて一緒にバーベルを持ち上げる。体は密着しているけれど、彼にはそんな余裕はない。必死だ。


「8回。あと2回やろう」 私と彼は一体になったまま膝を曲げ、そして、私はバーベルがギリギリ挙がるくらいの力でジワっと持ち上げてやる。彼は「くっ」って苦しそうな声をあげる。

「ラスト。10回目やるよ」 ああ、これは私が補助してなかったら潰れてたな。本当はよくないんだけど、半分くらいの、40㎏くらいの力で持ち上げてあげる。


「頑張った。ゆっくり、バーベル戻そう。スクワットでガシャって戻すのかっこ悪いわよ。みんなビックリするし。そう、疲れてても、丁寧に、クールに」なんて、私好みに育ててみたりして。

 私は密着したままラックまで二歩進み、彼が静かにバーベルを置くのを見届けて、彼の背中に頬と胸をぎゅっと押し付けてから、静かに手を離した。


 ああ、もう終わっちゃった。


 彼は膝に手を置いて、ゼイゼイと肩で息してる。頬に大粒の汗がしたたり落ちてる。なんか、よく聞こえないけど「ありがとうございました」みたいなこと言ってる。


 私は、「頑張ったわね」って言いながら、彼の頬に手を回し、微笑みかける。

 彼は、ちょっと驚いた気配を見せるけれど、振り払ったりはしない。

 遠くでフロントの女の子がこっち見てる。尚ちゃんに余計な事言っちゃだめよ。‥‥‥いや、別にいいか、どっちでも。


「それじゃ、昇君。私、今日肩だから。また機会があったら補助してあげるわよ。ナイボ頑張ってね」 

 今日はこのくらいが丁度いいわね。せっかく二人が頑張ってるんだから、ナイボ終わるくらいまでは、お行儀よくしてるわよ。


 私の、尚ちゃん、いや昇君も含めてだけど、今の気持ちは何?


 妹、と弟? 慈愛?


 そうね、慈愛ね。


 ‥‥‥今のところはね。


 ******


第4章 オマケ3 マッチョカルテ


以下、中立で公正な筋肉の神様判定 小田島昇スペック(17歳9月 前橋大会時点)


1 ビルダースペック(レベル1~10の10段階 数字は全てパンプ時)


  総合 レベル4(十両下位)

  上腕 36㎝→37㎝(レベル4)

  胸囲 105㎝→105㎝(4)

  尻囲 90㎝→92㎝(4)

  腿囲 53㎝→55㎝(4)

  カーフ(ふくらはぎ) 33㎝→35㎝(3)


2 ストロングポイント フレームのバランスはレベル10 広背筋の張り出し 抜群のキレ


3 総評

 4月から身体のサイズは微増にとどまりますが、体重を71㎏から64㎏まで絞っていますから、むしろ大きく進歩していると言えます。表面の脂肪が落ちても、サイズが同じということは、内側の筋肉が大きく増えていることを意味するからです。一度体重を74㎏まで増やして、上手く減量して脂肪だけ落とせた、と言えるでしょう。

 補助も入れて濃密なトレが出来た成果ですから、トレのパートナーには感謝しなければなりません。

 比較的長身なので、まだ細く見えますが、ナイスボディの選手としては、標準的なバルクを備えていると言ってよいでしょう。欲を言えば並んだ時の胸と肩の迫力がもう少し欲しいです。


 前橋で日本切符を獲れたら、全日本までの2カ月間でどれだけバルクを増やせるか、それが勝負の鍵になるでしょう。




→ 読者の皆様。いつも本作をお読み頂き、ありがとうございます。

 今回は、オマケ三連発でしたが、そのうち減量五景は、わたくしの自体験を物語に投影した実話です。

 そういえば、パリ五輪で、最後血を抜いても体重オーバーで失格になった女子レスリングの選手がいましたね。それほど減量って辛いんですよ。トータル12㎏位までなら半年で減量できますが、最初はともかく、最後の2㎏は、もう乾いたタオルを絞って水を出すような苦行になりますから、本当に「金輪際やりたくない」って気持ちになります。その反動も怖いです。わたくしは、コンテストの打ち上げで暴飲暴食し、一晩で3.8㎏増えたことがあります。短期間内に別のコンテストに出る場合には要注意です。 


 次回は、いよいよ昇と尚のデビュー戦、前橋大会です。第一話はお色気展開が少々ありますよ。


 それではまた。




 小田島 匠


 




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