最後のオマケ なぜか第2部のプロローグ 

~ プロローグ ~ 12月20日(金) ~


1 今、僕と尚は学校の体育館の舞台袖にいる。ジャージを着ている。舞台では校長先生が話をしている。『冬休みの過ごし方が云々』とか言ってる。


「次、出番だよな」

「顧問の先生の紹介が挟まるから、あと5分くらいかしらね」

「そろそろジャージ脱いでおくか」


 僕と尚はジャージを脱いで、ナイボのコスチュームになった。僕は予選用の水色のサーフパンツで、尚も予選用のピンクのボクサーパンツと白のトップス。耳に銀色のイヤリング、そして頭上にティアラを載せている。ヒールは直前でいい。栗色の長い髪はポニテじゃなくてアップにして、後ろにまとめている。ティアラ載せるんだもんな。


「黒ビキニはやめといたのか」

「うん。さすがに観客みんな高校生だから、刺激が強すぎるかなって、思って」

「あれ、殆ど全裸って感じだもんな。むしろ全裸より露出度高いように見える不思議な服だ」

「それにしても寒いわね。年末だから当然なんだけど」と言って、尚が両腕を胸前で組んで肩をすくめてブルっとした。なんか肌が青白くなってる。

「よくないな。風邪ひいたら大変だ。くっついていよう」

「うん。そうなっちゃうわよね。ふふふ」


 僕は尚の両肩を抱き寄せて胸に抱え込み、背中に腕を回して抱きしめた。

 尚は、「ああ、あったかーい」って言いながら、組んでいた腕を解いて、僕の背中に回して、広背筋を撫でながら、「この1カ月で、ずいぶん身体大きくなったわね。厚みも出たみたい」って、ささやいた。

「うん。沢山食べて5㎏増えたからな。尚も、胸と尻、また少し育ったな」

「えー、ほんと? 嬉しいな。一緒にトレしてるからだね」

「‥‥‥しかし、なんだな、学校でこんなことやってて、すごい背徳感だ」

「えー、そう? スリリングでなかなかいいじゃない」


 尚が、少ししなっぽく身体をよじって、下から上目遣いに僕を見上げ、僕も尚の腰に両手を回してギュっと引き付けながら、顔を近づけようとしたその時、


「おっと、お取込み中でしたか、失礼。じゃなかった、こらっ、お前ら学校で何やってんだ? もうすぐ出番なんだぞ!」って顧問の先生からお叱りの声が飛んだ。バレちゃったものは仕方ないので、僕は、

「あ、その声は先生。誰かいるとは思わなかったので、すみません。だけど寒いんですよ。半裸なんですから。こうしてないと風邪ひいちゃいます。邪(よこしま)な気持ちが一切ないとは言いませんが、これにはやむを得ない事情があるんです」と、尚を抱きしめたまま、堂々と言ってみた。尚は僕の胸に頬っぺたつけて赤くなってる。


「お前というやつはぬけぬけと‥‥‥。まあお前たちずっと二人で頑張ってきたからな。そりゃ仲も良くなるよな。だけど、このあと出番なんだよ。部の存亡がかかってるんだよ。寒いならくっついてないで、パンプアップしてろ。腕立て100回やったらホットになるって」 うう、正論だ、おっしゃるとおり。


 僕と尚は、仕方なく身体を離して、並んで腕立て伏せを始めた。

「それじゃ、これから紹介だからな。終わったところで、一人ずつ呼ぶぞ」

先生はそう言って、幕を手で開いて、舞台の演台に歩いて行った。


 ******


2 「えー、みなさん。ご存じない人も多いと思いますが、わが校には、全国でも珍しいボディビル部があります。この秋のナイスボディジャパン全日本大会10代の部で、我が部の小田島昇君が2位、相沢尚さんが見事優勝を果たしました。皆さんこれっぽっちも分かってないと思いますが、これは相当にすごいことです。わが校から出場した2名の選手が、日本の細マッチョの1位と2位を占めたということです。二人は、特に相沢さんは、ボディメイク界期待の若手として、今後注目される存在となるでしょう。今日はせっかくですので、賞状の授与だけではなく、ボディメイクの競技がどういうものなのか皆さんに理解して貰うために、二人には全日本のコスチュームを着て入場して貰います。まずはフレッシャーズクラス全日本2位の小田島昇君から!」

 

 と、そこに、聞きなれたベスボのBGMが流れ、ステージのライトが落ちて、スポットライトが華やかに舞った。うわー、放送部、ずいぶん頑張ってくれたんだな。しっかりやらなきゃ。

 僕は、ライトが落ちた舞台上に、コンテストと同じく、胸を張って手を大きく振って入場した。左手のステージ下には、450人の生徒が何事かと驚きつつ待っている。僕はステージ正面まで進んで、客席にフロントポーズをとったところで、ライトがパッと点いた。

 客席からは、『おー』という静かなどよめきが聞こえる。『昇、すげーよ。あんな身体だったんだ』『あれこそ理想の肉体だな。まさにベストボディ』『ああなるまで何年かかるんだろうな』というような反応なのかな。なんか思ったほどじゃなかったけど、まあいいや、どうせ僕は露払いだし。


 先生が、「続いて、ガールズクラス全日本優勝、相沢尚さんの入場です」と声をかけ、再びライトが落ちた。

 

 そこにBGMに乗って、ヒール履いた尚が優雅にウォーキングしながら入場してきた。ライト点いてないのに、既に入場時から客席がざわついている。『相沢さん、すごい背高ーい。脚超長ーい』って感じだろうか。

 尚は、僕の隣に立って、客席に向かってフロントポーズをとる。右手を腰にあて、左手はしなやかに宙に伸ばし、上品に指を反らせる。左ひざを少し前に出し、内側に入れ、そして優しい笑顔。尚お得意の『女神のポーズ』だ。黒ビキニじゃないから、女神度は少し落ちるけど、初めて見るんだから、みんなたまげるぞ。


 そしてライトが点いた瞬間、僕が今まで学校では聞いたことがなかった、地鳴りのような歓声が、『ウォー』って波のようにステージまで押し寄せて来た。


『こ、これはすごい。さすが全日本優勝。細いのに出るとこ出てて、しかもちゃんと鍛えられてる。パーフェクトなボディ!』

『相沢さん、すっごく綺麗。真っ白。ほんとに日本人なの? どうやったらこんなになるの?』

『てか、尚さん、これ目の毒ですー。これほんとに凝視していいんですか。いいんですよね?』 

『でもこの二人の関係気になるわね・・。絶対アチチよね』


 尚がポーズを解いて、横向いてニッコリしながら胸の前で手を振る。

『オーッ!』って歓声と共に、大きな嵐のような拍手が起こり、そして、ピーピーと口笛が鳴り響く。 ああ、予想はしていたけど、全部尚に持ってかれちゃったな。ちぇ。まあいいけど。

 

 ちなみにこの時、前の方に座っていた長身のテニス部一年男子が目をキラキラさせて尚を凝視し、手がちぎれんばかりにパチパチやっていたのだが、彼が何者なのか、その時には知る由もなかったし、もちろん気付くこともなかった。


******


3 校長先生から賞状を授与して貰ったあと、金と銀のサッシュをかけて貰い、部長の僕が挨拶に立った。


「えー、皆さん。今日は大変驚かれたと思います。今日まで僕たちボディビル部の存在や活動を全然知らなかった人が大半なんじゃないかと思います。今年はたまたま僕と相沢さんがコンテストに出場してこのような成績を収めさせて頂きましたが、こういった選手としての活動はボディビル部の活動の一部にしか過ぎません。身体を鍛える目的は人それぞれで、各部員がジムに通って、身体を鍛え、体力の向上と肉体の強化を図り、またそれによる精神の鍛練を積むのが当部の活動の基本になります。

 長く続けることが一番大事ですから、各自できる範囲でいいんです。最低週3日、各1時間筋トレすれば、2~3カ月で身体が変わってきたのを実感できるはずです。そのくらいでいいんです。僕と尚、じゃなかった、相沢さんは毎回早朝にやっていますから、放課後はフリーです。だからボディビル部の部活は勉強やバイトには影響しません。寝るのは早くなりますけど、そのくらいです」と言いながら、僕は一旦言葉を切って、体育館を眺め渡した。ああ、ちゃんとみんな大人しく聞いてくれてるな。


「それから、ジムは、基本、大人の人ばかりで、サラリーマンはもちろん、お医者さんや弁護士さん、会社の社長さんなど、様々な社会人が集まってきます。みんな忙しい中で時間をやりくりしてトレに来ている人たちで、毎日努力できる真面目で気持ちのいい人たちです。我々高校生もジム仲間ですから、すぐ仲良くなって受け容れて貰えますが、そういう方々と交わっていろいろ話したりご飯食べたりするのは、すごく社会勉強になると思うんです。敬語も身に付くし。そういった意味では、ボディビルというこのスポーツは、僕たち学生にとっても心身ともに成長できる素晴らしい競技だと思っています」 さあここから本題だぞ。しくじるな。


「そういう思いで、僕は2年前に先生にお願いしてこの部を作って頂いたのですが、いま我が部は存続の危機に瀕しています。今度の3月に3人の部員が卒業し、大学生になってしまうので、女子部員一人になってしまうんです。部活として成立するには最低3人の部員が必要なんです。彼女が卒業するまでは存続させて貰えるかも知れませんが、再来年は廃部になってしまいます。もちろん新年度の新入生がまだいますから、望みはあるわけですけど、今ここにいる皆さんの中にも、筋トレに興味があったり、すでにジムに通っている人もいると思うんです。ボディビルはもともとがマイナーな競技ですから、寄り集まってみると、同好の士っていうんでしょうか、すごく居心地がよくて、結束が固まるんです。楽しいんです。だから、是非、今日の演技を見て興味や関心を持った人がいたら、遠慮なく部室に遊びに来て下さい。僕たちはいつでも扉を開けて待っています。

 僕と尚、おっと失礼、相沢さんは、卒業後も競技を続けると思います。せっかく当校のボディビル部から全国大会の女王が出たのですから、この火を絶やさないよう、OBとして、皆さんにお願いしたいと思います。

 最後になりましたが、この3年近くにわたって、僕たちの活動を理解し、支えてくださった先生方、苦楽を共にした部員のみんな、それと変人扱いしつつも暖かく見守ってくれたクラスメイトのみんなに、心からのお礼を言いたいと思います。最高の高校生活でした。本当にありがとうございました!」


 僕が、そう、長い挨拶を終えると、聞いていた生徒たちから、『おー』ってどよめきが広がり、それとともにパチパチと拍手が沸き起こった。尚も横でちょっとグシグシ言って目元を擦りながら拍手してくれてる。

 そこで、またベスボのBGMが流れ、最後に僕と尚は全日本大会のフリーポーズを披露した。 尚は左手を腰に当て、長い右足を大きく横に出して、胸を反らせて笑顔でウィンクしながら、右手人差し指を中空にビッと突き刺して決めた。銀のイヤリングがシャラっと揺れて、ティアラが照明にキラっと光った。


『おー! 尚さんかっこいいぞー!』って、また再び場内が大歓声に包まれた。


******


4 終業式終了後、各自ホームルームを経て、部室に集合する。狭いので小型の電気ストーブ一台で十分暖まる。

 お弁当を広げて食べつつ、皆で歓談する。僕のお弁当は、相変わらず鶏肉とブロッコリーだが、増量期なので、ゆで卵2つとおにぎり一個が追加されている。尚も体を大きくしようと、ゆで卵1つと、お弁当のご飯を増やしている。


「お前の挨拶よかったな。聞かせたぞ」と、剛からお褒めの言葉を貰った。

「ありがとう。緊張した。コンテストなら全然緊張しないのに、なんでだろうな」

「これで部員入って、香津美が一人ぽっちじゃなくなるといいだんがな」剛が心配そうに香津美ちゃんを見つめる。


 香津美ちゃんはコンビニの鮭のおにぎり食べながら、

「うん、そうだけど、新入生の勧誘も頑張るし、最悪クラスメイトに頼んで名前だけ2人入って貰えれば、来年一杯はもつわよ。そこはそんなに心配してない」って、割合明るく答えた。続けて、「それとね、9月からこないだまで、尚先輩の応援してて思ったんだけど、いいな、カッコいいなって、私も卒業記念にベスボに出てみようかなって、思ってるの‥‥‥」

 

 その瞬間、3人の部員から、「おー、いいじゃない。がんばれ香津美部長。絶対応援行くよ!」って激励の声が飛んだ。


「えー、でもあんまり期待して貰って、予選落ちで午後イチでお帰りじゃ来てくれた人に悪いし。こっそり出ようと思ってたんだけど‥‥‥」って不安そうに言うから、

尚が、「そんなことないよ。大丈夫。予選はまず通ると思うわよ。相手関係もあるから上位三人に入って全国いけるかまでは分からないけど。」と、激励してあげた。

 僕は、「それじゃさ、東京は激戦区でレベル高いから、前橋に出なよ。師匠も今年ベスボ出るらしいから、前橋出るようにお願いしよう。選手二人なら応援しがいがあるしな。そんで、また帰りに高崎ですき焼き食べようよ」って提案し、皆も、「おー、それいい。是非そうしよう。師匠にも話しといて」ということになった。


 と、そこに、部室の外に人の気配が。香津美ちゃんが気が付いて、「どちら様ですか?」とドアを開けたら、1年生ふうの男女が立っていた。

 香津美ちゃんが、「もしかして‥‥‥、入部希望?」って聞いたら、初々しく、恥ずかしそうに、「はい。終業式の相沢さんの演技みて、カッコいいなって思って。僕たち町田に住んでて、二人ともメガラス(ジム名)の会員なんです。週3回通ってるんですけど、学校でも筋トレの話できる友達がいたらいいなって思ってたんです」と話してくれた。

 

 僕は、「おー、それは大歓迎、さ、入って入って。部室狭いんで、俺と剛は立ってるから。こちらにどうぞ」って言いながら、椅子を引いてあげた。

 

 よかった。これで、とりあえずは我が部は安泰だ。

 

 香津美新部長、春から頑張れよ。



 *****************************************


 → とまあ、これがボディメイク編第2部のプロローグになります。昇と尚は卒業後、それぞれの競技生活に進み、残った香津美ちゃんはナイボに挑戦し、師匠もナイボで再度頂点を狙うことになります。

 第1部のあとがきで書いた通り、当面第2部を執筆することは困難ですが、このプロローグがテニス編に繋がっておりますので、最後のオマケに掲載させて頂いたものです。

 とは言っても、テニス編の第4章まで昇も尚も出てこないんですけどね。

 本作を読んで興味の湧いた方は、よかったら続けてテニス編もどうぞ。なろうでもアップしていて、そちらは5000字前後のぶつ切り横書きバージョンで、スマホならなろうの方がずっと読みやすいと思います。


 それでは、みなさん、またお会いしましょう。


 小田島 匠



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