エピローグ  ~ 河川敷にて ~

~ エピローグ ~ 12月7日 土曜日


 トレ後の尚と待ち合わせて、一緒に京王線に乗って、聖蹟桜ヶ丘の駅で降りる。

 今日の尚は、ジャージじゃないんだな。いっぺん家に帰って着替えたんだ。

 お誕生日に着てたニーハイとグレーのワンピース。髪はストレートで顔のサイドだけ緩めのレイヤー。あとトップスと合わせたグレーのカチューシャ。


 ああ、多摩川を超えると、ちょっと気温が下がるな。


「お前、それ寒いだろ」

「そんなことないよ。ニーハイ、割とあったかいし」

「そうだけど、もう12月だぜ。俺のジャケット貸すよ。俺暑がりだから大丈夫」

「へー、優しいのね」って尚が僕のジャケットを羽織る。ああ、やっぱり尚でもブカブカなんだな。


「ところで、なんで今日は聖蹟なの?」

「いやまあ。たまにはな。ここもアイアンジムあるし、マシンも違うから、ちょくちょく来てもいいかなって」と、急に聞かれて僕は言い淀んでしまう。


「‥‥‥なんかあるでしょ」

「いや、まあ、その‥‥‥」

「言いなさいよ、今」

「その、府中だと、親とかトレ仲間の目があるし、あと‥‥‥」

「何?」

「‥‥‥ほら、駅周りに、個室でいちゃいちゃできるとこがないだろ?」

「な、そんなこと考えてたの?」

「いや、そりゃ、無理にとは言わないけどさ。またいくらも機会あるだろうし」

「エッチ、スケベ、ケダモノ」


「すんません。じゃ、今日はいいです。反省します‥‥‥」

「なーんてね。ふふん。昇は私の身体大好きなんだもんね。それじゃ後でデザートにどうぞ、召・し・あ・が・れっ」って言いながら、尚は僕の腰に両手を回して、ギューって抱きついて来た。真っ白な頬を薄紅色に染めている。


 ******


「ねえ昇。お昼、お弁当買って、多摩川で食べようよ。今日天気いいし」

「ああ、それいいな。そうしよう」


 多摩川の護岸ブロックに座って、京王百貨店で買った「しゃぼてん」のヒレカツ弁当を広げる。風が通ってちょっと寒いけど、気になるほどじゃない。河川敷でテニスをする人たちや、釣りをしている人たちで、割と賑やかだ。

 南の雲間から日差しが差し込み、尚の白い頬を照らし、陽光の中で産毛がキラキラと光る。風が栗色の髪を撫でていく。おお、今日は女神様じゃなくて、天使だね。ああ眩しいな。幸せだ。


「ねえ、やっぱり来年からフィジークに行くの?」 尚がお箸を割りながら聞いてくる。

「そうしようかなって思ってる。はい、お茶。あったかいぞ」

「ありがと。でもフィジークじゃ、さすがにまだ細いんじゃない。きっとまたラスボスにやられるわよ」

「ああ、そうなるんだろうな」

「そんだけ素質あるのに、あんた連戦連敗じゃないの」

「うん、まあ、でも自分よりちょっと上のレベルの方が、やってて面白いだろ?」

「ふふ、私、『負けっぷりのいい男』ってのも、割と好きになったわよ」

「よせよ。やだよ(笑)」 


 そう言って、僕は、足元に落ちてた石を、「よっ」って川面に投げた。

 ズボンって音がして、驚いた水鳥がバタバタ飛び立った。


「あ、驚かせちゃった。悪いことしたな」

「飛んでった。どこまで行くのかしら?」


 水鳥は、曇の合間に覗いた青空に向かって、どこまでも真っすぐ昇っていった。


 僕は、尚を愛している。


 僕は、尚と生きていこう。

 僕は、尚と一緒に齢を取ろう。


 そんなことを考えながら、僕は尚の手を取り、二人で空を見上げていた。

 


               ~ 青春のお共にボディビルどうですか? (了) ~




 ****************************************


 あとがき ~ すべての読者の皆様に感謝いたします ~


 読者の皆様。本作を最後まで読了頂き、ありがとうございました。

 本作は、これで第一部、ナイスボディ編が完結となります。昇は結局2戦2敗で終わってしまいましたが、まだまだ発展途上ですから、これからどんどん強くなることでしょう。私の中では「あしたのジョー」みたいに、いつも強い相手に真っ向から挑んでかっこよく負けちゃう、というイメージでおります。

 

 本作はボディビルというニッチなテーマで書いておりましたので、仕方ないとは思っていましたが、それにしてもpvで苦戦致しました。前橋編で撥ねるかなと期待していましたが、最後まで変わらずでした。ジムや筋トレは、ある程度年齢のいった大人の趣味なのかも知れませんね。 とはいえ、読者様が漸減するようなことはなく、ずっと10人前後の方が更新ごとにすぐ読んで下さっていたようですので、一部のコアな読者様にはちゃんと刺さったようです。皆さまの応援が力になりました。ありがとうございました。


 実は本作の第2部も半分くらいは書き上げてあるのですが、なにしろ私自身がフィジークの選手ではないのと、ビキニやフィットモデルなどの女子競技には通じておりませんもので、肝心のスポ根部分は、来年取材しないと完成できません。期待して下さっている読者様も多くはないと思いますが、そういうわけで本作は無期限で連載停止にならざるを得ません。悪しからずご容赦下さい。まあ、連載ものですから、今書いてある分までアップする、というのもアリかも知れませんが。

 一応、構想としては、前半メインが尚vs優里の昇争奪戦、後半メインが女子オールジャパンの尚vs優里vsカトリーヌの三つ巴大激戦、オマケで昇のフィジーク(と師匠及び香津美ちゃんのナイボ)を予定してはおります。


 それでは、また機会があったらお会いしましょう。それまでみなさんお元気で!


 小田島 匠


 → とまあ、ここまであとがき書いたんですが、このあとオマケで第2部のプロローグをつけて、本作を完結にしようと思います。第2部のプロローグはテニス編につながっているので、テニス編読んだ方は、「なるほど、そういうことか」と、伏線回収できますので。

 もちろん、本作に続いてテニス編を読んで下さる方も大歓迎ですよ。





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