黄金色の稲穂9

 その日が終わる頃には、刈り終えた稲が乾いた土の上に整然と並び、風が吹くたびにカサカサと乾いた音を立てていた。


 夕方の冷たい風が田んぼをさっと抜け、稲の刈り跡をなでるようにそよぐ。

 夕暮れの空は茜色に染まり、遠くの山々が薄く霞んで見える。

 山の稜線が柔らかく光を反射し、日が沈むにつれて、空の色も徐々に暗くなっていった。

 田んぼの周りにはススキがゆらゆらと揺れ、夕焼けがその穂を金色に染め上げている。

 空気には乾いた稲の香りが漂い、ほのかに秋草の匂いが混じって鼻をくすぐる。

 空に浮かぶ薄雲がゆっくりと流れ、その風景には、ひとつの季節が終わり、次の季節が静かに訪れようとする予感が感じられた。


 カワズ殿たちは、日が暮れるまで作業を続けた後、ようやく田んぼの縁に腰を下ろし、一息ついた。

「いい稲だったなぁ」

「これで今年も豊作だわいど」

 と、顔を見合わせて嬉しそうに笑い合う。

 彼らの頬に光る汗が、秋の夕日に照らされた金色の穂のように輝いていた。

 遠くから風が吹き抜け、カガチ様がくわえたキセルから立ち上る煙が、ゆったりと宙に漂い消えていく。

 彼は煙を細く吐き出しながら、刈り終えた田んぼをじっと見つめていた。

 厳しい眼差しで、稲が整然と並ぶ様子を確認し、満足げにうなずいた。

 ほんの少し口元を緩めるその表情には、収穫の喜びが静かに漂っている。

 領主として自らの領地の豊かさを誇らしく感じているというような様子がうかがえた。

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