黄金色の稲穂22
二人が立ち去ったあとの無人の駅に、ぼんやりと文字の残像が浮かび上がっていた。
「……未だ見つからず……」
「……不安と焦りが……」
「……による影響……」
「……囁かれる噂……」
どれも意味の全貌を語ることはなく、断片のまま滲んでは消えていく。
それらはまるで、口をつぐまれた言葉たちが、なおどこかでさざめいているかのようだった。
壁にも床にも、誰かの記憶の名残のように、掴めぬ影が静かに漂っている。
語られなかった真実が、この場所のどこかにひそやかに残っているような――
そんな気配だけが、じわりと滲んでいた。
風がひとすじ吹き抜ける。
かすれた文字がふっと揺れ、空気の中に溶けていく。
その刹那、駅全体が微かに軋んだように感じられた。
目に見えない力が、何かをほどくように、ゆっくりと輪郭を崩していく。
構内の柱が、壁が、屋根が、すこしずつ霞にまぎれるように淡くなり、
遠くで鳴った列車の音が、それを合図にしたかのように、全てをさらっていった。
最後に残った風が、ひと吹き、冷たく通り過ぎると――
そこには、もう駅の姿はなかった。
誰かがいたはずの場所も、今ではただ、風と記憶の気配だけがさざめいていた。
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