夕さり街7

 それでも、アサギに向けられる好奇の目は消えることはなかった。

 客たちは距離を置きながらも、遠くからチラチラと視線を送り、興味深そうに囁き合っている。

 その視線を感じるたびに、アサギは胸の奥が重くなるような感覚に襲われ、自然と身を縮めてしまった。

 そんなアサギに気づいたマリは、そっと彼の手を握りしめる。

「うん、大丈夫……」

 アサギはマリの手を握り返し、小さく息をついて答えたが、その声にはまだ少し戸惑いが残っていた。

 自分が注目されているという不安が静かに渦巻いている。

 無神経な視線が強く集まるにつれて、不安はさらに膨らみ、アサギの体は次第にこわばっていった。


「この街に集まってくる人間はね、顔の見えない相手には好き放題言うのよ。誰かが少し目立つと、すぐに好奇心や憶測で集まってくる。責任なんて持っていないくせに、どこかで拾った断片的な情報を振りかざして、勝手に物語を作り上げるの。あなたのような子供が来たら、そりゃあみんな目を輝かせるわよ」

 ルナの言葉は一見穏やかで優しい口調だったが、その裏には冷たい非難と不穏さが漂っていた。

 アサギはその視線を受けながら、漠然とした不安が胸の奥に広がり、彼女にも何か別の意図があるのではないかと感じていた。

 マリもまた、微かに眉をひそめ、ルナの言葉に対する警戒を強めている。


「ねえ、アサギ」ルナがふと、軽い口調で名前を呼んだ。

「あなた、口縄の郷の方から来たって言ったわね。テンさんとは知り合いかしら?」

 その名前が出た瞬間、アサギはわずかに息を止めた。

「はい……テンさんとは知り合いです」アサギは慎重に言葉を選びながら答えた。

 ルナがなぜテンのことを知っているのか、心の中で疑問が膨らんでいく。

 テンさんはこの街とも繋がっているのだろうか、そんな思いが頭をよぎった。

「そう……私もテンさんとは知り合いなのよ。ふふふ、ずっと前に色々とお世話になったわ」

 ルナは過去を懐かしむように目を細めて言う。

「私たち、仲良くなれそうじゃない? だから、もう少しお話を続けましょう」

 ルナは戸惑うアサギの様子などお構いなしに、楽しげに話を続けた。

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