黄金色の稲穂11
提灯が風にゆらりと揺れるたび、カワズ殿たちの影が田んぼの土に映し出される。
揺らめく光に合わせて踊るその影たちは、まるで大地そのものが命を宿し、一緒になって祭りを楽しんでいるようだった。
跳ねる音、鈴の響き、笑い声と囃子。
それらが溶け合い、秋の夜を優しく包み込んでいく。
光も音も香りも、ひとつの大きなゆりかごのようにこの場を包み、すべてが夢の中にあるような、静かな高揚感に満ちていた。
そんな幻想の只中で、アサギの心にふと、冷たい風が吹いた。
賑わう祭りの中にいながら、胸の奥にぽつりと影が落ちるのを感じたのだ。
目の前ではカワズ殿たちが踊り笑い合い、誰もが幸せそうに見える。
その輪の中に自分もいるはずなのに、なぜか一歩だけ、気持ちがその輪の外に立っているような気がした。
「テンさんと……キュウさんも、来てくれたら、もっと楽しいのに……」
ぽつりとこぼれたその言葉は、夜風に紛れてどこかへ消えてしまいそうだった。
けれど近くにいた一人のカワズ殿が、それを聞きとめて、そっとアサギに顔を向けた。
「……あの二人は、ここに来たことなんかねぇてば」
低く、やさしい声だった。
「いつも、あの鎮守の森の奥にいる。ずっと、あそこで……」
そう言って、そのカワズ殿はほんの一瞬だけ、表情を曇らせた。
それは笑い声にあふれるこの場に似つかわしくないほど、静かで、深い陰りだった。
アサギはその表情に気づき、胸の奥がまたすこしだけ締めつけられるような気がした。
「……なんでだろう……」
つぶやいた声は、まるで宙に溶けていくようだった。
誰も答えず、ただお囃子の笛の音が遠くから届いてきて、その問いかけをそっと包み隠した。
まるで「それは、今はまだ知らなくていいことだよ」とでも言うかのように。
田んぼに響く笑い声と踊る影の向こうで、空には星がまたたいていた。
風が吹き、ススキがそよぎ、そしてアサギの胸には、届かない願いがそっと揺れていた。
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