黄金色の稲穂7
黄金色の穂の間を、カワズ殿たちが踊るように動き回る。
彼らの掛け声と笑い声が秋の風に乗って響き、田んぼはまるでお祭りのような熱気に包まれていた。
そのとき――
田んぼの端に、いつの間にかひとりの姿があった。
まるで最初からそこにいたかのように、風景の一部のように自然な佇まいで、カガチ様がどっしりと腰を下ろしていた。
手には黒塗りのキセル。ゆったりと煙をくゆらせながら、鋭さを隠した眼差しで、カワズ殿たちの働きをじっと見つめている。
動くでもなく、語るでもなく、ただ静かにそこに“在る”。
それだけで周囲の空気が少し張り詰め、秋の空に淡く立ち上る煙が、どこか重みのある気配を漂わせていた。
時折、カガチ様はキセルの先を軽くトンと叩き、口元からゆっくりと煙を吐き出す。
その煙は風に乗り、空気に滲むように溶けていく。
カワズ殿たちは、そんなカガチ様の存在を明らかに意識しながらも、努めて自然なふるまいを続けていた。
「ほれ、そっちも急ぐべ!」「こっちの穂はもういけっぺ!」
と声を掛け合いながら、次々と稲を刈っていく。けれど、誰の背中にもほんのり緊張の色が浮かんでいた。
カガチ様の目は、そのすべてを逃さない。
「あっちの稲刈りはまだ甘いのう。刈り残しがあるではないか」
……とでも言いたげな鋭い視線を、時折そっと走らせる。
だが、作業が順調に進んでいる様子を見て、やがて満足げに頷いた。
「ふむ、良いぞ。今日もよう働いとるわ。黄金の穂が揃う日も近いのう」
その声は、地の底から響くような、低く落ち着いた響きだった。
カワズ殿たちはその一言に、ひそかにほっとしたような表情を浮かべる。
キセルを一口くわえては、ゆっくりと煙を吐き出す。
そのたびに、カガチ様は静かに微笑み、どこか威厳のある視線を彼らに送り続けていた。
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