黄金色の稲穂2

 季節が移り替わり、桜からアジサイへ、そして雨へと移り変わる様子をアサギは不思議に思わず、ただ静かに受け入れていた。


 田植えの準備が進んでいく様子を見ると、それだけでこれから何が始まるのか、期待に胸が膨らむのだった。

 カワズ殿たちは、田んぼに水を張りながら、古い歌を口ずさみ始めた。節回しはゆったりとして、聞いているだけで自然と心が安らぐような調子だった。

 その歌に合わせるようにして、田んぼの水がじわじわと広がり、田植えの準備が整っていく。

 アサギは、彼らの動きを見ながら、自然と自分もその流れに溶け込んでいった。

 見よう見まねで、手伝えることを探しながら、水を張る様子を見ていると、田んぼが次第に命を取り戻していくようだった。

 ふと顔を上げると、梅雨の雨が小降りになり、田んぼ全体が水鏡のように空を映していた。

 これから始まる田植えに向けて、カワズ殿たちの動きも少しずつ忙しさを増していく。

 季節はまたしても、まばたきする間に過ぎ去っていくように感じたが、アサギは特に気を留めることはなかった。


 田んぼにすっかり水が張り巡らされるとカワズ殿たちは、待っていましたと言わんばかりに田んぼの中に飛び込んだ。

 ピチャリと水しぶきが上がり、彼らの小さな体が軽やかに水の中へと入っていく。

 水に入ることが嬉しくてたまらないかのように、目を細めて楽しげな声をあげながら、次々と田んぼの中へ飛び込んでいく。

 その光景は、池に浮かぶカエルたちが一斉に動き出すかのようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る